坂本龍一が語る、『BEAUTY』で描いたアウターナショナルという夢のあとさき

坂本龍一、1990年撮影(Photo by Ian Dickson/Redferns))

坂本龍一の人気作『BEAUTY』が2021年最新リマスタリング・初の紙ジャケ仕様でリイシュー。ベルリンの壁が崩壊した1989年、米ヴァージン・レコード移籍第1弾として発表された本作は、「グローバリゼーション」という言葉がまだ一般化してなかった時代に、ジャンルや国籍といった境界を軽やかに超えてゆく音楽のあり方を実践した。このアルバムは30年後の世界でどんな意味をもちうるのか。再発盤ライナーノーツも執筆した、若林恵(黒鳥社)によるインタビュー。


『BEAUTY』とは?
1989年11月21日に発表された通算8作目のアルバム。ブライアン・ウィルソン(ビーチ・ボーイズ)、ロビー・ロバートソン(ザ・バンド)、ロバート・ワイアット、ユッスー・ンドゥール、アート・リンゼイ、スライ・ダンバー、ピノ・パラディーノなど豪華ゲストが参加。沖縄民謡、ローリング・ストーンズ、スティーブン・フォスターやサミュエル・バーバーなど収録曲の約半分がカバー曲。トラックリストは各国盤で異なっており、今回は本人の意向により日本盤の選曲を採用。


─この12月22日に、晴れて『BEAUTY』の再リリースがかなったわけですが、いまのタイミングで再リリースされるに至ったのは、どういう経緯がおありになるんでしょう? ずっと出そうと思っていたのが出せていなかったみたいなことなのか。

坂本:『BEAUTY』とその次作の『Heartbeat』だけが、未だにデジタルのプラットフォームに乗っかっていなかったのですが、こちらとしては出したいなとは思っていたものの、この2作はともに「ヴァージン・アメリカ」のもとでつくったもので、その「ヴァージン・アメリカ」自体が身売りをしたりして権利がずっと転々としていたんです。それがユニバーサルに落ち着いて、デジタルプラットフォームに上げて欲しいということを2〜3年前に働きかけ始めて、それがようやく実りました。

─『BEAUTY』がリリースされた1989年は、自分がちょうど大学に入学するくらいのタイミング、本当に好きだったんです。本当に好きだったんですが、探せばどこかにCDがあるはずなのですが、ストリーミングプラットフォームに入っていなかったことで、すっかり疎遠になってしまっていましたので、今回の再リリースは本当に嬉しいのですが、坂本さんご自身は、これまで『BEAUTY』を聴き直すような機会はあったのでしょうか。

坂本:いや。ほとんど無いですね。自分の作品を聴き直すことはほとんどないので。

─そうなんですか。

坂本:それは『BEAUTY』に限らずそうで、過去の作品は大概忘れてしまっていることが多いんです。とはいえ、こうやって改めてリリースされるタイミングでもう一度聴き直す機会もありますので、その都度「これは結構いいな」とか「これはひどい」とか、本当は思っていたりします。もちろん制作に没頭しているそのときは、毎回ものすごく面白がって一生懸命やっているのですが。


坂本龍一の近影(Photo by zakkubalan ©2020 Kab Inc)

─改めて聴き直した『BEAUTY』はいかがですか。

坂本:『BEAUTY』は本当に奇妙奇天烈、でも力のある音楽だな、と思いましたね。

─『BEAUTY』は、それまでの坂本さんの活動の流れでいうと、前作の『NEO GEO』にいたるまでのなかで育て上げてきた音楽観や、もっというと世界観みたいなもののひとつ集大成したもののように感じますが、ご自身としてはどうなんでしょう。

坂本:そうですね。やりきった感はありました。最初にお話したように「ヴァージン・アメリカ」が設立されて間もなくのことで、僕が、たしか最初に契約した何人かのアーティストのひとりだったんです。

─そうなんですか。

坂本:それも先方が興味を示してくれたことで契約に至り、最初のアルバムということで,自分としてもものすごい意気込みがありましたし、「ヴァージン・アメリカ」にも、すごく期待していたんです。そんなこともあり、僕自身としては『BEAUTY』はポップスのつもりでつくったアルバムだった。「ヴァージン・アメリカ」には社長がふたりいたんですが、完成したものを彼らに聴かせたら、ふたりとも呆然としてしまいまして(笑)。「これは宗教的な体験です」とか言ってはくれたのですが、要は、全然ポップスではなかったということですね。本人はすごいポップなつもりだったのに。なので、僕は結局ポップスのアルバムは一度もつくれなかったんですね。

─そうですか。

坂本:ブライアン・ウィルソンが参加していたりするんですけどね(笑)。まあ、ポップスの世界の人をキャスティングしたからポップスになるかというと、そういうわけはないですし。

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