坂本龍一が語る、『BEAUTY』で描いたアウターナショナルという夢のあとさき

坂本龍一、1990年撮影(Photo by Ian Dickson/Redferns))


クレイジーなエンジニアの貢献

─『BEAUTY』には、そういったものへのロマンがやっぱり詰まっていて、「Web2.0」から「Web3」への移行が叫ばれるなか改めて聴くと、なんだかポジティブな気持ちになれる気もします。

坂本:あともうひとつ、『BEAUTY』を語る上でお伝えしておきたいのは、エンジニアのことでして、『NEO GEO』と『BEAUTY』を担当してくれたのはジェイソン・コルサロという、僕よりも若いクレイジーなエンジニアだったんです。彼は本当にクレイジーなヤツでして、彼の貢献はものすごく大きいんです。元々、ボブ・クリアマウンテンという巨匠のアシスタントをやっていた人です。

─クレイジーなんですね。

坂本:『BEAUTY』ではパワー・ステーションというスタジオでミキシングを行ったのですが、スタジオの都合で夜8時から翌朝までの12時間ブッキングしていたんです。ですから夜8時から作業を始めて、僕も若かったから明け方まで作業に付き合うのですが、いい加減眠たくなってホテルに戻って寝ていると、午後2時ぐらいにドンドンドンドンってドアを叩く音がするんです。で、ドアを開けると「ミックスが出来たから、聴いてくれ」ってジェイソンがいるんですよ、毎日。

─(笑)。

坂本:わざわざホテルの部屋まで持ってくれるんです。で、しょうがないから、起きて、一緒に聴いていると、ジェイソンはビールなんかを飲み出しちゃって、そのまままた夜の8時からスタジオに行ってといった日々が、2カ月くらい続いたんです。


ジェイソン・コルサロが携わった楽曲のプレイリスト(若林恵が制作)。代表作にシンディ・ローパー『True Colors』、デュラン・デュラン『Seven and the ragged Tiger』など。マドンナ『Like A Virgin』のプロデューサーにナイル・ロジャースを推挙したのも彼だったという。

─ヤバいですね。

坂本:本当に気が狂ってましたね。だけど今回リマスタリングするにあたって改めてアルバムを聴いて、ジェイソンの音には、本当に度肝を抜かれましたね。ものすごい音なので。

─ものすごいです。

坂本:1曲目からドカンってくるじゃないですか。あれは必ずしも僕の趣味の音ではなく、僕はむしろもっとオブスキュアな、陰翳礼讃じゃないですが、ぼやっとした音像が好みなんです。ところが、ジェイソンはCO2をバリバリに吐き出すようなトラックに乗って、ポップコーンをバリバリ食べながら、バーボンでもウォッカでも酒とあらばなんでもがぶ飲みするようなヤツで、本来、僕と共通するところはまったくないのですが、でも、お互いものすごく気が合って、才能があまりにすごいので、彼のつくる音は好みじゃないのだけれども、なんでも好きにやれと好き勝手にやってもらったんです。

─そうなんですね。

坂本:こんなにアメリカンなアメリカ人とどっぷり付き合うのも自分としては初めてでしたし、そのこと自体も面白かったので、ほとんど好きにやってもらったんですが、今聴くとやっぱり音が尋常じゃないですね。

─リッチなプロダクション感はあるのに楽器の音は妙に生々しくて、その配合の絶妙さは、同時代のもののなかでも突出している印象ですし、いま聴いても古びた感じが微塵もしません。

坂本:今回の再発で改めて、ジェイソンの才能と功績には、どうしても触れておきたいんです。というのも彼は、2017年に亡くなってしまって。本当にアメリカンなやつで、メインストリームのロックやポップで育ってきて、彼の仕事の大半もそういうものだったのに、僕の音楽のようなものが仕事としてきて「なんだ、これは」ってびっくりしていたと思います。でも、僕の音楽に心底惚れ込んでくれた。だから「兄貴、兄貴」って感じで懐いてくれて、ずっとべったり一緒にいたんです。彼にとっては、多分それまでに聴いたこともないような音楽だったと思うんですが、そこは天才だから、ちゃんとやっちゃうんですよね。




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