King Gnuがツアーファイナルで表現した「喪失」との向き合い方

常田大希の視線の先にあるもの

2021年、常田大希というソングライターは、「消えたもの」と「その先」に目線を置いた曲を多く残してきた。2月にリリースされたmillennium paradeの1stアルバム『THE MILLENNIUM PARADE』は「祭り」「弔い」「死者を祀る」がテーマだったし、『泡』も消えたものへの眼差しが中心にあり、「一途」も「最期」が目の前にある状態から綴られている。SixTONESに提供した「マスカラ」も恋の終盤に立ったところからの想いを描いた曲だ。常田がなぜ「消えてしまうもの」や「なくしてしまったもの」と「それをどう受け入れていくのか」といった目線を持って曲を作っているのかは『THE MILLENNIUM PARADE』リリース時のインタビューでも核心の一部を聞いているのでそちらを読んでほしい。いつの時代も優れたアートには生きる指針が宿るが、やはり今の時代にこそ、そういった視点から作られたアートに触れたいとこの日強く思わされた。人間は危うい生き物だ。いつだって、誰だって。調子よさそうに見える人が、急に糸が切れるように気力を失うことがある。それを今年も痛感する出来事がいくつかあった。2021年、やむを得ず閉店したライブハウスだってたくさんある。肉体がなくなっても魂は在り続ける、物体がなくなっても思い出は残る、というのはときに綺麗事のように思えてしまって、肉体がなくなれば、建物が取り壊されれば、思い出までもが壊されるような気持ちにすらなってしまう。それでも、King Gnuは、「BOY」「飛行艇」「Flash!!!」などが特に顕著だが、すべての曲の根本で、無様な格好でもいいから今を懸命に生きて、とにかく今を積み重ねていくことを肯定する。朝起きて寝るまでなんとなく流れていく時間に身を委ねるのではなく、社会のベルトコンベアに流されるのではなく、全身に血を巡らせて心臓の鼓動を動かせと伝えてくる。「Teenager Forever」を奏でればその3分間は10代の煌めきを思い出せるように、失ったものは曲の中に封じ込めていつでも解凍できるようにしたいという願いと、何かを残すことでなんとか人生を紡いでいけるのだということも感じ取った。「泡」では深く行けば行くほど真っ暗になる闇の怖さと神秘を、歌と演奏、水中や深海を表した映像、優しく動く青色のレーザーで表現。最後に演奏した「サマーレインダイバー」含め、「King Gnu Live Tour 2021 AW」ではあらゆる曲と表現手法から、消えていくものや喪失との向き合い方のヒントを手渡してくれるようだった。



King Gnuの2021年を振り返って締めくくり(まだ年内に『一途/逆夢』の作品リリースが控えているが、)、またmillennium paradeが『NHK紅白歌合戦』に出場する直前の今のタイミングで、これだけは改めて綴っておきたいと思うことがある。King Gnuは売れるためのバンド、millennium paradeはやりたいことをやる場所、という捉え方をされている場面を未だに見るが、King Gnuとmillennium paradeはそんな安易な位置付けではない。「一途」に表れているアティチュードを読み取ればわかることだが、常田大希が10代の頃から培ってきたロックバンドを愛する気持ちと野望と表現力を爆発させているのがKing Gnuであり、同じく自身の人生で培ってきたアンダーグラウンド的なアートを愛する気持ちと野望と表現力を昇華させているのがmillennium paradeだ。どちらにおいても、日本・海外関係なく、今の時代においてまだ見ぬ創造を生み出し、新しい世界を切り拓きたいという表現者としての確固たる信念があり、King Gnuとmillennium paradeはそれを一歩ずつ実現している。

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Photo by Tomoyuki Kawakami


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King Gnu Live Tour 2021 AW
国立代々木競技場第一体育館 2021年12月15日
SET LIST

1. 飛行艇
2. 千両役者
3. Vinyl
4. Sorrows
5. ユーモア
6. 白日
7. 破裂
8. Prayer X
9. The hole
10. 泡
11. Hitman
12. 三文小説
13. Slumberland
14. Tokyo Rendez-Vous
15. 傘
16. どろん
17. Flash!!!
18. Teenager Forever
EN1. BOY
EN2. 一途
EN3. サマーレイン・ダイバー

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