King Gnuがツアーファイナルで表現した「喪失」との向き合い方

「King Gnu Live Tour 2021 AW」at 国立代々木競技場第一体育館(Photo by Kosuke Ito)

10月29日に開幕した「King Gnu Live Tour 2021 AW」の全7会場14公演が、12月15日に終了。国立代々木競技場第一体育館にて開催されたツアーファイナルのライブレポートとライブから見えた2021年のKing Gnu評をお届けする。

【写真ギャラリー】「King Gnu Live Tour 2021 AW」

あらゆる感情がうごめく一夜だった。King Gnuが益々音楽シーンの最先端を切り拓いて、新しいバンド像や音楽観を示し続ける存在であることへの高揚感。なくなってしまったものに対する喪失感と、鼓動を止めずに身体中に血を巡らせていく野性的感覚を研ぐための揺さぶり。そして、1万1000人もの人間が集まったライブ会場で生まれるエネルギーへの感動。


Photo by Kosuke Ito


Photo by Kosuke Ito

2021年はアーティストたちにとって、なんとか全国ツアーを開催できる状況にはなった(とはいえ様々なリスクや懸念がつきまとう中であり、ツアーを開催するのもしないのも、アーティストにとっては常に苦渋の決断だった)ものの、これまでは新型コロナウイルス感染拡大防止対策の一環としてイベント開催時は「収容率50%、もしくは5000人(いずれか小さい方)」が入場者数の上限とされていた。そしてようやく、その規制は11月19日の発令によって緩和され、感染防止安全計画が認められた大声なしの公演は収容率100%で開催ができることになった。「King Gnu Live Tour 2021 AW」の最終公演となった国立代々木競技場第一体育館2デイズは、それぞれ1万1000人のお客さんが会場を埋め尽くして開催することができた。私にとっても満員のお客さんが広い会場を埋めている場でライブを観るのは1年10カ月ぶりで、開演30分程前に最寄りの原宿駅に着くと駅の女子トイレに長蛇の列ができているのを見て、そんな光景も大規模ライブならではの現象だと懐かしく思ったりしたものだ。

この日のKing Gnuは、素晴らしかった。ステージからほとばしるエネルギーが、終始とにかくすさまじかった。もちろんこれまでも、スキルフルなミュージシャンが集まるKing Gnuというバンドのライブは常にエネルギッシュで圧巻なものであったが、演奏する曲のどれもがさらに磨きがかかってより生き生きとした状態で鳴らされていたのだ。


Photo by Tomoyuki Kawakami


Photo by Tomoyuki Kawakami


Photo by Tomoyuki Kawakami

Rolling Stone JapanでのこれまでのKing Gnuやソングライター・常田大希のインタビューを振り返ると、2019年は息つく間もないくらい怒涛の日々を過ごし、「2020年は一回落ち着いて熱を取り戻したい」と言っていたところ、コロナという予期せぬ形で立ち止まらざるを得ない状況となり、そこからまたmillennium parade「FAMILIA」の制作などを経て、根本的な音楽への愛情や熱をバンドとして取り戻していったことを語ってくれていた。その上で、「泡」「BOY」『一途/逆夢』といった作品を一曲ごとにストイックにクオリティを磨き上げながら丁寧に作り上げ、夏にはフジロック・フェスティバルのヘッドライナーを務めて、そして秋からはツアーで全国をまわってきた。しかも国立代々木競技場第一体育館公演までは「収容率50%、もしくは5000人(いずれか小さい方)」という制限の中で、空席もあって観客は声を出せない状況でのライブを12本も成し遂げてきた。その制限というのはやはり、特にロックバンドにとっては思うようにライブの流れを運べないなどの壁にぶつかるほどタフなものであり、King Gnuにとっても決して楽にライブができる状況ではなかったはずだ。そんな状況を乗り越えてきたことも、バンドの4人と、さらにライブを作るスタッフチーム全員との結束力やそれぞれの筋力の成長と進化につながっていたのだろう。そうしたいくつもの要因によって、King Gnuは今まで以上に人間が奏でる音でエネルギーの爆発を生み出せるバンドになっていることが非常によくわかるライブだった。

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