遠野遥が語る『教育』のインスピレーション源 Perfume、横浜ドリームランド、ボカロ曲

書いていて一番楽しかったシーンとは?

─何か大事なときに限って不条理なことが起きて、何もかもぶち壊しになってしまう。その象徴としてラプトルを置いたのかと僕は思ったんです。以前のインタビューで、この小説を書く前に映画『グエムル-漢江の怪物-』を観たとおっしゃっていたので、その影響もあるのかなと。

遠野:ああ、なるほど。『グエムル』は好きですけどね。今回はスポーツのシーンが割と多く書かれていますが、ここでサッカーのシーンを書きたくなったのもあるのかな。まあ、恐竜である必然性は、よくわからないんですけどね。

─前作『破局』も主人公はラグビー部員でしたよね。遠野作品の中で「スポーツ」も重要な要素だと思います。

遠野:自分がやっていたこともあるから、書くのが楽なのもあるんですよね。取材とかも別にいらないし、書いていて楽しいいし。それに、読んでいる人もあまり難しいこと考えずに読めるじゃないですか。「これはどういうことが言いたいんだろう?」とか別に考えなくても、とにかく動きを追っていればいいわけですから。なので、スポーツのシーンは『教育』でもちょくちょく入れていきたいと思っていましたね。

─遠野さんの作品は、これまで様々なところで「虚無」という言葉で語られてきました。それについては今回、『教育』を書いていてご自身ではどのように思いましたか?

遠野:おっしゃるように、よく言われることなのですが自分では意識していないことなんですよね。「空虚さを描いてやろう」みたいなことは全然なくて。でも意識しなくてもそう思われるということは、それが作者の性質ということなんでしょうか。

─なるほど。前作『破局』は常田大希(King Gnu)のツイートに影響を受け、自分の小説のパンチラインはどこかを意識しながら書くようになったとおっしゃっていました。

遠野:そうですね。今回は原稿用紙300枚のボリュームがあって、一応「長編」と言われる小説だから、パンチラインは複数用意する必要があるなと思っていました。

─実際、「『破局』の「傘のシーン」と同じか、それ以上の手応えを感じる部分が複数ある」ともおっしゃっていましたが、それは具体的にはどこでしょうか。

遠野:自分で「ここが一番のパンチラインかな」と思うのは、演劇のシーンです。主人公のクラスメイトで演劇部に所属する真夏が、劇の中で犬に延々と話しかけているところ。単純に、相手が聞いているのかどうかよくわからない長いセリフを書くのが好きなんですよ。読んでいる人がそこを「いいな」と思うかどうかは分からないけど、書いていて一番楽しかったのがこのシーンなんです。気持ち的にはこの3倍くらい書いても良かったくらいですし、次もやってやろうと思っていますね。思えば「催眠」シーンも、催眠術部の未来が主人公に催眠をかけ、延々と話し続けるわけだから長いセリフと言えますね。ここも書いていて楽しかったです。

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