遠野遥が語る『教育』のインスピレーション源 Perfume、横浜ドリームランド、ボカロ曲

長いセリフを書くのが楽しい理由

─長いセリフを書くのが楽しいのは何故でしょう。以前のインタビューで「自分の力を超えて書くことができた」とおっしゃっていましたが、ある種のトランス状態に入っていく感覚があるのでしょうか。

遠野:話しているうちに気持ちが溢れてくるというか、地の文よりもエモーショナルになっていくときってあるじゃないですか。そこにその人物の「思い」みたいなものが発露されるから、書いていて手応えとして感じているのでしょうね。この犬のシーンも、話している内容自体は大したことないのだけど、なんとなく真夏が抱えているものを感じる。

─確かに、とりとめのないことを喋っているうちに気持ちが昂ってしまいて、気づけばなぜか涙が出ていたりすることってありますね。

遠野:そうなんです。真夏がなぜ、こんなに夢中になって犬に話しかけているんだろう? という状況も含め、何かしら言葉にできない気持ちがそこに立ち現れていて、思い入れのあるシーンです。

─ 「暴力」や「性」「狂気」を作品の中で描く一方、遠野さんご自身は至って健康的といいますか、規則正しい生活を送っていると聞きました。村上春樹もよく、「精神の不健康さを表出するには肉体の健康が必要」と言っていて、毎日のランニングを欠かさないアスリートのような生活を送りながら、同じように「暴力」や「性」「狂気」を描いています。

遠野:村上春樹さんのそのエピソードは知りませんでした。基本的に他の作家についてはよく知らないのですが、私も小説家はアスリートに見習うべき点が色々あると思っています。別に生活がすさんでなければすさんだ生活が書けないわけでもないし、むしろ健康じゃないと小説は書けないし、書き続けられない。長期的に作家活動を続けるためにも規則正しい生活を心がけているという感じなんですよね。

ただ、いつやめてもいいとは思っています。結局のところ、小説を書いているほうが楽だから小説を書いているのかなと。もし今、小説を書くことをやめたら結構な時間が出来てしまうし、「この時間をどう過ごそう?」と考えなきゃいけないじゃないですか。小説を書いていれば、他のことを考えなくていいので楽なんです。だからとりあえず書いているんですよね。

─(笑)。

遠野:私、中高生の頃は受験勉強が好きだったんですよ。なぜかというと、受験勉強を頑張っていれば他のことを考えなくて良かったし、学校や塾ではそうすることが望ましいとされていたから。「何をすればいいのか分からない」というのが一番苦しい状態だから、とりあえずそこから脱するために「特別やりたいことはないけど、とりあえずこれをやろう」と決めることを昔からよくやっていて。その延長線上で今は小説を書いているんですよね。

─何かに没頭するのは確かに大事なことですよね。

遠野:そう思います。何か一つのことに夢中になっていれば、他のいろんなことを考えなくてすむじゃないですか。その方が楽ですからね。

─考えても仕方ないし。

遠野:そうなんですよ。だから、結構、他の作家さんのインタビューとか読んでいて、「(書くのは)苦しいけど、それでも書く」というふうに言っている方がいらっしゃいますが、自分は違うタイプだと思います。私は「楽だし楽しいから」書いているので。

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