オリヴィア、マネスキンなど
「2021年の顔」を振り返る―途中で話に出たドージャ・キャットの「Kiss Me More」は、川谷さんの個人ベストで次点に入ってますね。川谷:めっちゃ聴いたんですけど、この曲はみんな好きだろうから、あえて自分のトップ10に入れなくてもいいかなって。新しく出たindigo la Endの曲「邦画」をアレンジするときに、「2番のAメロをこの曲っぽくしよう」って話をしたくらい、かなり聴いてましたね。主に僕と(佐藤)栄太郎が。
―ドージャ・キャットといえば、前に栄太郎くん(佐藤栄太郎、indigo la Endのドラムス)が「Say So」をリファレンスに挙げてた曲もありましたよね。川谷:僕はそこまで「Say So」は好きじゃなくて。(「Kiss Me More」は)
SZAが参加してるのも大きいですね。SZAはめっちゃ好きで、フィーチャリングで参加してる曲は全部いいなって思うくらい(笑)。それを抜きにしても、「Kiss Me More」は2021年を象徴する曲だと思います。去年からのディスコ的なブームをよりソウルっぽくしたというか、テンポはそんなに速くないけど、これが今年のノリだなって。そういう意味では、2021年のノリを象徴しているのがドージャ・キャットで、そこにマネスキンとか「こういうのもあるよ」ってだんだん出てきて、来年はもっとロック寄りになるのかもしれない。きっとマネスキン以外にもロックバンドが出てくると思うんですよね。それでいうと、個人ベストの次点に入れたザ・スナッツ(The Snuts)は、アークティック・モンキーズをもっと明るくしたようなバンドで。2006年とか2007年くらい、僕が大学生だった頃のUKロックみたいな感じ。そういうのは大好きなんで。
―ガレージロックリバイバルの後期ですよね。川谷:その後期くらいのリバイバルが、今後もしかしたらあるのかなって予感がしてます。アークティック・モンキーズを小学生くらいで聴いてたような世代が、これから出てくるのかなって。
―直撃世代が親になってて、みたいな。川谷:そうそう。だから、コロナ後の世界は絶対ロックになっていくと思っていたけど、それがマネスキンの登場によって加速した感じがします。
―さっきも話したように、彼らがアメリカでもイギリスでもなくイタリアから出てきたのがやっぱり今っぽいし、当然のようにTikTokが絡んでるのも今っぽいですよね。川谷:あの感じはTikTokで使いやすいですもんね。あと、
ザ・キッド・ラロイの「STAY with Justin Bieber」もTikTokでかなり使われてましたよね。
―「STAY」は「世界で最も再生された楽曲」の3位、日本国内のバイラルチャートで年間8位と国内外で大ヒット。この曲は結構エモめですよね。川谷:そういう意味では、この曲は昨年までの感じというか、新しいかと言われるとそうでもない気はしますけど、いい曲ですよね。僕も結構好きです。(ランキングを眺めながら)……あれ、ザ・ウィークエンドの「Blinding Lights」っていつのリリースでしたっけ?
―2019年ですね。去年の「世界で最も再生された楽曲」1位でした。川谷:それが今年も8位ってすごいですね。いつ聴いても前向きに聴こえるし、こういう曲が長く聴かれるんでしょうね。あとは、エド・シーランも毎回出るたびにメロディの構築の仕方が流石だなって思います。今年の「Bad Habits」も「ザ・エド・シーラン」みたいな曲ですよね。彼の音楽にはコロナ禍とか関係ないっていうか、僕からすると「Shape of You」以降ひたすら同じことをやってる気がするんです。ずっとただいい曲を書いてるっていう。
―サウンドメイクやビートは曲によっていろいろですけど、軸にあるのはソングライティング、歌メロだっていうのは変わらないですよね。川谷:そうですね。弾き語りっぽいメロディがずっとあるなって思います。
―「世界で最も再生されたアーティスト」のランキングは、1位がバッド・バニーです。川谷:去年も1位でしたよね。「アーティスト」のランキングになると、やっぱり曲のランキングとはまた雰囲気が違ってきますね。ヒップホップ色も強いですし。
―それこそ、こっちだとドレイクがまだ上位にいたり。川谷:カニエ、トラヴィス・スコット、エミネムとかも20位以内にいますし、こっちのランキングは以前からずっと人気があるアーティストたちが並んでますよね。マネスキンはまだこっちには入らない。
「世界で最も再生されたアーティスト」プレイリスト―楽曲のランキングを踏まえると、オリヴィア・ロドリゴはもっと上位でもよさそうですけど。川谷:まだ(トータルの)曲数が少ないから、こういう結果になるんでしょうね。
―このランキングでは過去作の再生回数もカウントされるので、これまでの実績も重要になってくると。川谷:そうそう。とはいえ、こっちのランキングも将来的には変わってくるかもしれないですよね。今後、新しいアーティストたちのライブラリがどんどん増えていったら、ラッパーがもっと下になる可能性もありそうだなって。
―実際、ジュース・ワールドやトラヴィス・スコットは去年よりも順位が下がってます。楽曲のランキングほどビビッドに変化が表れてはいないけど、それでも今後の予兆を少し感じさせるというか。川谷:来年はがっつり変わるかもしれないですね。フェスが復活したら、絶対バンドが増えるんで。
―「世界で最も再生されたアルバム」のランキングはどうでしょうか?川谷:2位のデュア・リパとか10位のハリー・スタイルズ(『Fine Line』)は、(昨年以前のリリースなのに)まだ聴かれ続けてるんですね。オリヴィア・ロドリゴが1位になってはいますけど、こっちもアーティストのランキングと一緒で、上位だけ見るかぎりではそんなに変化がない感じはします。ザ・ウィークエンドもずっといるし(6位『After Hours』)。
―あらためて、オリヴィア・ロドリゴのブレイクに関してはどう見ていますか?川谷:何か新しいことをしてるわけではないけど、「彼女は聴かなきゃいけない」っていう雰囲気になっていますよね。この人はもともと女優としても知られていて、そういう出自とかファッションアイコンっぽい感じも含めて、ガワから入る人も多いけど、曲もちゃんといいっていう。ネット世代だけど、曲だけがひとり歩きしていく感じともまた違うじゃないですか? あとはやっぱり、若い人が信奉する存在がいつの時代にも必要だったりすると思うんです。
ビリー・アイリッシュが誰でも知ってる存在になって、みんなが次を探し始めたところに、オリヴィア・ロドリゴがちょうどハマった感じはします。
―そういえば、ビリーの最新作『Happier Than Ever』はトップ10までに入ってないですね。川谷:そうなんですよ。入っていてもよさそうですけど、ちょっとチルな雰囲気になりすぎた感じもしました。
―それこそコロナ以降、みんな塞ぎ込むよりも明るいものを求めるようになったと考えると、そこの気分とはちょっと合わなかったというか。川谷:それは大きかったと思います。かなり鬱屈した雰囲気がありましたもんね。それこそパンデミックになってなかったら、「bad guy」がザ・ウィークエンドの「Blinding Lights」みたいに、今でもランキングに入っていてもおかしくなかったと思うんですよね。でも、コロナになって世の中の雰囲気も変わり、「bad guy」の勢いが抑え込まれた感じがします。
―そこでオリヴィア・ロドリゴが取って代わったという。川谷:でも、日本だとまだ彼女を知らない人が多そうですよね。現時点では、ビリーの知名度とは比較にならないはずで。
―国内のランキングには全然入ってないですからね。それこそ、来日公演が行われていたりしたら、もっと日本でも話題になったんでしょうけど。そういう意味でも、海外のシーンとさらに乖離が進んだ一年でもあったと。川谷:そう思いますね。