川谷絵音が振り返る2021年の音楽シーン

クレイロからNCT 127まで
川谷に刺さった2021年の音楽


―川谷さんの個人ベストについても聞かせてください(一覧はこちら)。

川谷:今年は10曲選ぶのが大変でした。最初にも言ったように、飛び抜けていいっていうのがそんなになくて。でも、いい曲はいっぱいあったなって。クレイロのアルバム『Sling』はめっちゃ聴きました。レコードも買ったし、今の気分とも合ってたというか。ちょっとフォーキーで、ノスタルジックで……そういうのはずっと好きなんで。indigo la Endとか(外部アーティストへの)曲提供でもこの感じを出したいと思い、具体的にそういう話をしたりもしたので、このアルバムは今年、自分の曲作りの根幹にもなっていたと思います。




―プロデューサーのジャック・アントノフはテイラー・スウィフト、ラナ・デル・レイ、ロードとかも手掛けていて。彼が携わった作品は軒並みフォーキーですけど、クレイロはフォーキーな部分とオルタナ感がちょうどよかったですよね。

川谷:そうそう。今年だと他にもスネイル・メイルとか、オルタナを感じる女性シンガーソングライターがやっぱり僕は好きなんです。

―スネイル・メイルの新作『Valentine』の方が、オルタナ感は強めだったりして。

川谷:たしかに。この2人は仲いいんですよね。スネイル・メイルとクレイロが共演してるライブ映像があって、クレイロがめっちゃ適当に音を外しながら歌ってるんですけど、それもすごいよくて(笑)。やっぱり、僕ら世代はこの辺が絶対好きなんですよ。ポストロックとかオルタナを聴いて音楽やってる人たちには絶対刺さる。米津(玄師)もめっちゃスネイル・メイル好きだし、たぶん佐藤(千亜妃)とかも好きなはず。「このギターのここが好き」みたいなのがみんなわかるっていうか。



―「good 4 u」もいい曲だけど、ギターの歪みの音はスネイル・メイルの方が好きみたいな。そのあたりは各々の好みや世代感が出るでしょうね(笑)。

川谷:「good 4 u」の場合、メロディはいいですけど、アレンジがパンクっぽすぎるというか、僕はそもそもパンクはそんなに好きじゃないので、「drivers license」の方が全然好きですね。

―川谷さんの個人ベストを順に聴いてみて、ポップなんだけど、音像がちょっと面白いというか、変な曲が多い印象を受けました。NCT 127の「Sticker」とかまさにそうだし。

川谷:「自分の音楽にどう生かせるか」みたいな観点で聴いてる部分はありますね。「Sticker」はOKAMOTO’SのレイジくんがTwitterで、この曲のMVを乗せて、「ヴォーカルの処理がヤバい」ってつぶやいてて。それで聴いたのが最初です。ヴォーカルのミックスがかなりデカいのに、全然嫌じゃないし、音の差し引きやコード感も絶妙で。ちょっとダークな感じで、BLACKPINKの東洋っぽいリファレンスも感じる。今年もK-POPは結構いろいろ聴いたんですけど、ダントツでこの曲がかっこよかったですね。僕のなかでのK-POPキラーチューン。この感じをBTSでも聴いてみたいと思ったりもしました。



―最近のBTSの流れからすると、ここまで攻めた曲は出さないでしょうね。

川谷:いや、米津(玄師)が「Lemon」のあとに「Flamingo」を出したみたいに、BTSもそういうことをやるかもしれない(笑)。

―「Dynamite」「Butter」「Permission to Dance」とポップな三部作が続いたあとに、思いっ切り外してくる、みたいな(笑)。

川谷:そういうのもいいよなって思ったり。K-POPはずっとUSのトレンドを吸収してきたのが、最近はだんだんK-POP独自のものになってきていて。NCTの曲はまさに今のK-POPだなって。BLACKPINKを聴くと「これぞK-POP」って思うのに対し、「Sticker」は「これからのK-POP」な感じがして、これも今年を象徴する一曲だと思います。


Photo by Yoshiharu Ota

―あと、個人ベストにはバンド系も結構入ってますね。

川谷:ハイエイタス・カイヨーテはずっとリリースを待ってました。前作から6年空いて、その間にいろいろあったらしいですけど、これも僕ら世代は絶対好きっていうか。ソウルなんだけど、プログレチックな部分もあって、このバンド感はたまらないですね。ポストロックを聴いてた人にも刺さると思うし、ちょっと懐かしい気分もありつつ、今年アルバムが出てよかったなと思います。ブラック・ミディについては、2019年にライブを見たのが大きくて。僕は自分でチケット買って、来日公演にかなりの頻度で行くタイプで。ライブを見ると、そこから長く聴くアーティストになるんですよね。だから、早くまた海外からアーティストが来るようになってほしいなって気持ちも込めて選びました。




―ブラック・ミディもそうだし、ブラック・カントリー・ニュー・ロードスクイッドなど、今年はUKの新人バンドもアルバムを出していて。コロナ以前だったら来日公演も開催されて、もっと盛り上がったでしょうね。

川谷:あと、リトル・シムズは「今年のベストアルバム候補」みたいに言われてますけど、やっぱりすごくよかったです。ヒップホップだけどソウルっぽいっていうか。今年のヒップホップは全体的にそういう印象で、みんなこれまでのヒップホップから脱しようとしてるなか、一番自然だったというか。気を張らずに、本当にやりたいことをやったんだろうなって感じがしました。僕が選んだ「I love you I hate you」はビートが好きで、自分の曲を作るときの参考にもしました。サシャル・ヴァサンダーニ&ローマン・コリンはジャズシンガーとピアニストで、「Adore You」はハリー・スタイルズのカバー。もともと大好きな曲なんですけど、こんなに暗くカバーするんだって(笑)。

―レディオヘッドのピアノバラードみたいですよね。

川谷:そうそう。この曲は今年のベストカバーということで選びました。あとは改めて曲がいいなと思って。そういう意味でも、「世界で最も再生されたアルバム」に今年もハリー・スタイルズが入っていたのは頷けますね。たぶんシルク・ソニックも、もう少し早くアルバムが出ていたら、あのランキングに入っていたはず。前から思ってましたが、アンダーソン・パークのドラムの音って独特じゃないですか。あの感じは来年以降もっとトレンドになる気がします。



アデルの『30』も、もう少しリリースが早ければ入ってたでしょうね。Spotifyがこのタイミングで、プレミアムユーザー向けに、シャッフルボタンのデフォルト表示をオフにしたのも話題になりました。アーティスト側の立場からするとどう思いました?

川谷:「別にあってもいいんじゃない?」とは思っちゃいましたけどね。「だってサブスクだし」っていう。曲順通りに聴いてほしいっていうのはもちろんわかるけど……日本はまだCDが売れてるところでは売れてるから、そういう考えに至らないんでしょうね。曲順通りに聴きたかったら、CDを買ってくださいっていう。もちろん、サブスクでも曲順通り聴けるし、選択肢のひとつとしてシャッフルがあるというだけだから、それはそれでいいと思うんですけど。

―なるほど。

川谷:いずれにせよ、アデルとシルク・ソニックは来年のランキングに入ってくるでしょうね。あとはロック系だと、ウルフ・アリスはもっと売れてもいいと思ったし、ロイヤル・ブラッドもよかった。デーモン・アルバーンの新作も全然派手ではないし、売れそうな曲も入ってないけどよかったですね。

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