川谷絵音が振り返る2021年の音楽シーン

川谷絵音(Photo by Yoshiharu Ota)

世界的なパンデミックから一年以上が経過し、音楽シーンでも様々な「次」へ向かう動きが起きた2021年。昨年に引き続き、今年も川谷絵音を迎え、Spotifyの年間ランキングを見ながらこの一年を振り返ってもらった。

indigo la End、ジェニーハイ、DADARAYがアルバムをリリースし、MISIA、関ジャニ∞、原田知世らに楽曲提供を行うなど、相変わらずの多作ぶりを見せた今年の川谷。indigo la Endでは韓国のラッパーpH-1とコラボレーションをするなど、国を超えた新たな動きも見せ始めている。また、お馴染みとなった「関ジャム 完全燃SHOW」以外にも、「スッキリ」にコメンテーターとして出演するなど、論客としてもさらに幅を広げる一年となった。はたして、そんな川谷は2021年という年をどう見たのか。パンデミックに対する受け止め方の変化は音楽のトレンドにどんな影響を与え、世界と日本の距離は縮まったのか、それとも開いたのか。「総括」であると同時に「予兆」を感じさせる、そんなテキストになったように思う。


川谷絵音
2014年、indigo la Endとゲスの極み乙女。の2バンドで ワーナーミュージック・ジャパンより同時メジャーデビュー。現在ジェニーハイ、ichikoroを加えた4バンドの他、DADARAY、美的計画のプロデュースや様々なアーティストへの楽曲提供など多岐に渡る活動を続けて現在に至る。indigo la Endの最新デジタルシングル「邦画」、ゲスの極み乙女。の最新デジタルシングル「ドーパミン」が好評配信中。2022年1月26日にジェニーハイ初のライブ映像作品『アリーナジェニー』をリリース。


海外ではロック復活の兆し
「コロナ後」に進むシーン


―Spotifyのランキングを見る前に、2021年は川谷さんにとってどんな一年でしたか?

川谷:自分にとっては、2020年とそんなに変わらなかった気がします。2020年はフェスとかができなくなって、「来年はできるかな?」と思ってたけど、結局今年もあんまりやれなかったですよね。indigo la Endに関しては、去年からツアーをやっていたので、お客さんが声を出せないこととか、「この状況に慣れた」みたいな感じもあって。年末に向かっていくにつれて、日比谷野音や国際フォーラムでのライブもフルキャパで行えたり、ちょっとずつ変わってきたなとも思うんですけど、かといって、もう完全に大丈夫かっていうとそういうわけでもないので……そう考えると、あんまり変化はなかったかなって。

―音楽シーン全体の動きに関してはどうですか?

川谷:日本に関しては、2020年の盛り上がりがさらに進化した感じがします。ネット発で何者なのかよくわからない、顔を出してない人がさらに増えていて。そこで気になるのは、もちろんアーティストにもよると思いますけど、そういう人たちがライブをしてみたはいいものの、お客さんがそんなに入らない状況があるらしいんですよね。ネット世代はもともとライブに行く習慣があんまりないのと、コロナ禍の状況がこの2年でさらに進んで、ライブに行くというのが「日常」ではなくなった。その一方で、客席を減らさなければいけない事情もあって、チケット代は昔よりも上がってるから、ますます若い人は行きづらい。来年はそこがどうなるのかなって。ネット世代の人たちは、曲がサブスクで動いてるときはいいけど、ライブでマネタイズしていくとなったときにどうするのか。その点ではやっぱり、昔からライブをやってきた人たちの方が、しっかりお客さんを持ってるみたいですね。

―海外のシーンに関してはどうでしょうか?

川谷:海外はちょっとロック寄りになってきたというか。ギターが復活してたり、フェスも10万人規模でやったりしていて、日本とは違いますよね。日本はさらに閉じちゃった感じもします。ロックバンドも元気がなかったし。いいなと思う曲はあるんですけど、「これはヤバい」みたいなのがなかなかなくて。それは日本がガラパゴス化し過ぎたのもあると思うんですけど、やっぱりライブを見ることで、そのアーティストの良さがわかることってあるじゃないですか? 今はそういう機会がなかなかなくて、曲だけで判断しないといけない。その結果、チャートの顔ぶれはどんどん変わり続けて、YouTuberとかTikTokerの人がたくさん出てきたり、僕でもついていくのが大変になってきている。そんな中でも、藤井風くんとかVaundyとかは突き抜けていった印象がありますね。


Photo by JMEnternational for BRIT Awards/Getty Images(Olivia Rodrigo), Francis Delacroix(Måneskin)

―では、まずはグローバルのランキングを見ていこうと思います。「世界で最も再生された楽曲」の1位はオリヴィア・ロドリゴの「drivers license」でした。

川谷:オリヴィア・ロドリゴは今年すごかったですよね。すっかりファッションアイコンにもなったし。「good 4 u」も4位に入ってますけど、(この曲は)めっちゃパンクっぽさがあって。ランキング全体的に、去年より明るい曲が増えた気がします。7位のドージャ・キャット「Kiss Me More feat. SZA」とかも明るいじゃないですか? 日本は相変わらず、セツナ文化ですけど(笑)。



「世界で最も再生された楽曲」プレイリスト

―「エモい」曲が多いですよね。

川谷:海外はもっとカラッとした雰囲気がある気がします。「コロナ後」を感じるというか。なかでも象徴的なのはマネスキンですよね。こんなコテコテのロックバンドが一世を風靡することなんて、ここ数年なかったと思うので。

―しかも、イタリアから出てきたという。

川谷:そういう点も含めて、マネスキンはこのランキングのなかでも今後の流れを左右しそうな、特に注目すべき存在だと思います。

―彼らの「Beggin’」は「世界で最も再生された楽曲」の11位でした。トレンド的にはチルなものがずっと続いてきて、そろそろ違うものが聴きたいという流れもあった中で、コロナ禍に入り、いよいよ反動が明確になった感じはありますよね。

川谷:そうですね。ここに(今年ニューアルバムを出した)ドレイクとかが入ってないのもそういうことっていうか。「ザ・ヒップホップ」みたいな人が減って、ハッピーソウル……かつロックみたいな(笑)、そういうのが増えた感じはします。「エモい」みたいなのはあんまりないですよね。まあ、「drivers license」はそうっちゃそうだけど。

―「good 4 u」のほうはパラモアのパクリ論争もあったように、ポップパンク色が強くて、参照点が90年代から2000年代に変わってきた感じもあります。

川谷:やっぱりリバイバルですよね。マネスキンは基本的に全部聴いたことあるような、というかもはや懐かしさも感じるギターリフじゃないですか? でも、それがいいわけで。ヴォーカルのダミアーノも、今までの歴史上のレジェンドを全部ギュッとした感じですけど(笑)、それが今の若い人たちにとっては新しいものなのかもしれなくて、そこに希望があるというか。「ロックバンドいいよね」っていうふうになってる感じがします。

川谷さんが選んだ2021年の10曲にも、マネスキンの「I WANNA BE YOUR SLAVE」が入ってますね。

川谷:「Beggin’」はちょっと暑苦しいなって(笑)。「I WANNA BE YOUR SLAVE」の方がもっとノリノリなので、軽く聴けるっていうか。初めて聴いたのがこの曲だったんですよ。最初は「なんだこれ?」って異物感すら感じるくらいだったんですけど、ライブ映像を見たら腑に落ちて、気づいたらハマってたというか、口ずさんでました。で、インスタをフォローしたら、見た目も含めて良い意味でちょっとエグイっていう。アイコンになるべくしてなったというか。そういう感じも日本のバンドとは違うなって。



―アイコン性も高いですよね。

川谷:彼らやオリヴィア・ロドリゴは、やっぱりポップアイコンですよね。今年でいうとリル・ナズ・Xもそう。デビューアルバム『MONTERO』は以前よりも軽くなったというか、チープなシンセが入ってたり、カラッとして聴きやすくなった気がしました。


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