音楽における無音の効果的テクニック、シルク・ソニックなどの名曲から鳥居真道が徹底考察



そんなことをシルク・ソニックの「Leave The Door Open」を聴いていて考えたのでした。というのも、この曲では無音を効果的に使ったテクニックであるところの「ブレイク」やその親類関係にあるといえる「キメ」が多用されているからです。

ブレイクというのは演奏を一時的に中断することを指す音楽用語です。演奏者全体で一時停止することもありますが、特定のパートだけ残して他の楽器が演奏を止めるパターンも多く見られます。ヒップホップ用語のブレイク・ビーツは、ドラム以外の楽器が演奏を止めるドラム・ブレイクで叩かれるビートのことを指しています。

「Have A Break, Have A KitKat」というキットカットの有名なキャッチコピーがあります。作業を中断して休憩を入れることをブレイクと表現します。コーヒーブレイクなんてことを言ったりもします。このキャッチコピーはキットカットを2つに割ることと、小休止を取ることをかけた洒落になっているわけです。

ここで留意したいのは、音楽のブレイクは決してほっと一息つける休憩のようなものではないということです。むしろ緊張して落ち着かない気まずい時間だと考えたほうが、音楽の力学がどのように働いているかより体感できるように思います。

ブレイクは構成上の演出としてサビへの移行をよりドラマチックにしたいときによく使われるテクニックです。「Leave The Door Open」でいえば、0分50秒前後に登場する無音の箇所がそれに該当します。一瞬無音になったあとで、ブルーノ・マーズがアカペラで甘い歌声を披露したあとに、ドラムのささやかなフィルを合図に楽器隊の演奏が再び始まるという構成になっています。その後、1分10秒前後にさきほどと同様の無音が挿入されたのち、オチとして甘いコーラスが提示されて、そのまま2番へと移行していきます。このように「Leave The Door Open」には度々ブレイクが挿入され、ストップ・アンド・ゴーとでもいうべき歩み方で曲が進行していくわけです。

シルク・ソニックのビジュアルをひと目見れば70年代ソウルのパロディに取り組んでいることがわかります。もちろん音楽にもある種パロディ的に70年代ソウル的な意匠があしらわれています。先述のストップ・アンド・ゴー形式のアレンジも70年代ソウルに見られがちなパターンです。と言い切りたいところなのですが、寡聞にしてリファレンスを挙げることができません。意外と後追い世代が考えたバーチャルな70年代っぽさの象徴的なものなのかもしれません。



それらしきものを挙げるとしたら、ダイアナ・ロスの「Ain’t No Mountain High Enough」、マイケル・ジャクソンの「Got to Be There」、ジャクソン5の「All I Do Is Think Of You」などがあります。どれも曲の中盤にブレイクとキメの合わせ技的なパートが登場する曲です。こうしたパートには、それまでスムーズに続けてきたグルーヴを一旦中断し、0と100という極端なダイナミクスで来たるべき盛り上がりに向けて圧をかけて緊張を強いるといった機能があるように感じています。





このようなアレンジ上のテクニックは、比較的ソフトなグルーヴの曲にメリハリをつけるため採用されているのだと思われます。緊張と弛緩の駆け引きによって曲に凹凸をつけているわけです。ちなみにこの緊張と弛緩の駆け引きを曲単位から小節単位に圧縮した音楽がファンクだといえます。ジェイムス・ブラウン流のファンクはワンコードの曲が多いです。ワンコードの場合、ドミナント・モーションと呼ばれるコード進行による緊張と弛緩はないわけですが、音符と休符のダイナミクスからなるリズム上の緊張と弛緩でファンクは駆動しているといって差し支えないでしょう。

Rolling Stone Japan 編集部

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