ストリップクラブがワクチンの診療所に変わるまで トロント

住所不定の人々や不法移民の住むコミュニティが主な対象

Maggie’sが恩返しという形で対抗したきっかけは、まさにセックスワーカーやその収入源に対するこうした否定的な意見だった。Maggie’sでは昨年夏からトロントの繁華街のあちこちに気軽に利用できるワクチン診療所を設置し、少なくとも3600人にワクチンを提供している。ワクチン診療所が開設されたのは教会やサウナ、シェルターなどだが、もっとも注目を集めているのはストリップクラブだ。アド・カー氏いわく、パンデミック中のセックスワーカーにまつわる「話の流れを変える」ために意識的に行った活動のひとつだ。

「実際セックスワーカーたちは公衆衛生に深く肩入れしている、これまでもずっとそうだったんだ、と反論したかったんです」と彼女は言う。

この1年、Maggie’sはトロント市内の診療所や当局と提携して、敷居の低い移動診療所を設置した。ワクチン接種希望者は住民票や健康保険証など、従来のように身分証明書を提示しなくても注射を受けられる。この1年で大勢がワクチンを接種したことから、Maggie’sも追加接種に切り替えた。もっともMaggie’sのジェニー・ダフィー理事長によれば、よそでワクチンを接種できなかった高齢者など、1回目・2回目のワクチン接種を受けに来る人もいるという。

移動診療所がとくに対象としているのは、住所不定の人々や不法移民の住むコミュニティなど、ワクチン接種のために書類を用意できないような人々だ。世間からのけ者にされたり、そしりを受けることを恐れるセックスワーカーたちも対象にしている。「我々がID提示を求めないことも、診療所に足を運ぶ要因のひとつです」とアド・カー氏も言う。

ストリップクラブでの移動診療所を推し進める組織はMaggie’sだけではない。ラスベガスではHustler Clubという店舗がドライブスルー式のワクチン診療所を開設し、ワクチンを接種した客には無料でラップダンスを提供するというキャンペーンも行った。だがMaggie’sの場合、社会から疎外された人々が置き去りにされたパンデミックのさなか、自分たちのような行政サービスの届かないコミュニティにアプローチする画期的な方法を見出し、その過程で風俗産業に対する偏見を払拭した。

Translated by Akiko Kato

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