ストリップクラブがワクチンの診療所に変わるまで トロント

反ワクチン派からの批判も

Maggie’sは2021年6月、地元の教会に最初のワクチン診療所を開いた。トロント市内ではいくらか反発もあり、ダフィー理事長によれば、道路にピケを張った反ワクチン集団もいたそうだ。「さんざん言われましたよ、ストリップクラブをダシにしてワクチンを接種させようとしているとか、ワクチンを接種するには不潔な場所だとか、ストリッパーからワクチンを打たれるんだとか」(これは間違いだ――実際にはMaggie’sと提携する地元の診療所や保健当局がワクチンを投与する。だがダフィー理事長も苦笑するように、こうした批判が出てくるのはある意味皮肉だ。セックスワーカーが医療従事者であることは珍しくないからだ。「診療所に行って、検診してくれた先生がセックスワーカーだということもありえます」)

Maggie’sがZanzibar’sやFillmore’sといったトロント中心地のストリップクラブに声をかけると、オーナーは喜んでワクチン用に店を解放してくれた。ここにもまた移動診療所が世間の目を向けようとした事実がある。パンデミック中、個人事業主は営業許可申請料を免除されていたものの、ストリップクラブは営業停止中も営業許可の費用を払わなくてはならなかったのだ。

とりわけZanzibar’sではステージが小さすぎてワクチン接種者を収容できなかったため、客席でワクチンを投与した。VIPエリアは医療従事者がワクチンを積み下ろす場所に充てられた。Maggie’sではダンサーやその家族が出勤・退勤に合わせてワクチンを受けられるよう、診療所の開設時間をクラブの営業時間に合わせているが、ワクチンを接種するために身分証明書を提示できない、あるいは提示したくない人々にも門戸を開いている。「路上生活や公園で寝泊まりしているセックスワーカーも大勢います。不法移民だったり、身寄りがなかったり、失うものを抱えているセックスワーカーもいます」とアド・カー氏は言う。

ワクチンを接種する際に身分証明書の提示義務を免除したことで、Maggie’sは行政サービスから取り残されたコミュニティに直接アプローチすることができるようになった。「おかしな話ですが、こうしたけばけばしいストリップクラブが公然と目につく場所になったんです」と彼女は言う。「ですが、こうした敷居の低さこそがある種の匿名性を与えています」 。アド・カー氏が不法移民の人々に呼びかけたところ、はるばる5時間かけてMaggie’sの診療所にワクチンを受けに来てくれたこともあったそうだ。同組織ではワクチン接種に消極的な人々への説得も行っている。「建設業や輸送業、肉体労働に関わる大勢からも話を聞きました――こうした業種はトロントの反ワクチン派の大半を占めています」と彼女は言う。「ストリップクラブと同じような環境ですから、そもそもワクチンを受けようと思っていなかった人たちを受け入れるにはぴったりです」

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from Rolling Stone Japan

Translated by Akiko Kato

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