塩田明彦と向井秀徳、「人生がシンクロしている」二人が語る映画とロックの融合

忌々しい脚本、呪詛のようなロック

ーそして、『害虫』公開後にNUMBER GIRLは解散。『カナリア』ではZAZEN BOYSの「自問自答」が使われます。

塩田:環七を歩きながら『SAPPUKEI』を聴いていたら、ひたすらどこかを目指して走っている少年の姿が浮かび上がってきたんです。それが『カナリア』の始まりでした。そして、物語を考えているうちに「自問自答」が聞こえて来たんです

向井:そうだったんですか。NUMBER GIRが解散した後、ゼロからバンドを始めたいと思って、それがZAZEN BOYSになるんですけど、その時に意思表明をするつもりで「自問自答」を作ったんです。まず、最初にこの曲を歌わなければ、と思って。それに塩田さんが反応してくれた。

塩田:当時日本に生きている若者たちすべてが心の奥底に抱えている怒りとか呪いのようなものが、向井さんの体を通して溢れ出ちゃったっていう感じの曲でしたね。

向井:社会を刺すみたいな言葉もいっぱい入っていますけども、あくまでも自己確認っていうか、自分の立ち位置って今どこなんだ? みたいなことを歌いたかったんですよ。

塩田:でも、表現として強いと自分のことを歌っていても世界が追いかけて来ちゃう。いろんなものを引き寄せてしまうんですよね。特に歌にはそういう力があるような気がして。僕は「自問自答」を聴いた時、『カナリア』の主人公の叫びに聞こえたんです。それでこの曲を映画に使わせもらえませんかって相談したんです。


向井秀徳

ー「自問自答」はエンディングに流れますが、サントラは大友良英さんでしたね。

向井:「自問自答」は映画用に録音し直したんですけど、その際に大友さんが参加してくれて、その作業がすごく刺激的でした。大友さんのように偉大なキャリアがある方と、自分の曲で絡むというのは初めてで勉強になりましたね。

塩田:大友さんはジャズの人だから、向井さんと一緒にやってうまくいくかどうかわからないな、と思っていたんです。でも、大友さんは劇伴をやっていたんで、まったく大友さんの手が入らないのもどうなんだろう、と思って。向井さんが大友さんと一緒にやることを拒否したら、僕が大友さんに話をしようと思っていました。

向井:大友さんはジャズといっても、もっとフリーフォームで音楽をやられていて、そのなかにパンクが根強くある。だから一緒にやって違和感はなかったし、新しい扉が開けた気がしました。


塩田明彦(©SHIMAFILMS)

ーその後、向井さんは『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)のサントラで、ジャズ・ミュージシャンとセッションされましたよね。『害虫』『カナリア』を経て、お二人のコラボレーションは今回の『麻希のいる世界』で3度目になります。

塩田:以前、向井さんが「NUMBER GIRLで解散が決まっているなかでツアーをしたのは辛かった」とおっしゃっていたことがあったんです、それが印象に残っていて、『さよならくちびる』のアイデアのひとつになっていたんです。そしたら、『さよならくちびる』が公開した時にNUMBER GIRLが復活した。向井さんと僕の人生がシンクロしているような気がして、また向井さんと仕事がしたいな、と思っていたんです。それで『麻希のいる世界』の脚本を書き始めて、麻希が歌うのは呪詛のようなロックだと思った時に、これは向井さんだ!と思って脚本を送ったんです。

向井:脚本を読んでみたら、(ヒロインの)二人の人生が実に忌々しいんですよ。禍々しい、と言ってもいいかもしれない。そこに塩田作品の匂いを感じましたね。


『麻希のいる世界』より(©SHIMAFILMS)

ー監督のなかで曲のイメージはあったんですか?

塩田:胸の奥にある呪詛が吹き出したような曲にしたかったんです。そのイメージに近かったのが向井秀徳アコースティック&エレクトリックの「はあとぶれいく」だったので、最初、向井さんには麻希に「はあとぶれいく」を歌わせたいって相談したんです。本当は曲を作って欲しかったんですけど、急に動き出した企画だったので時間がなくて、お願いしにくかったんです。

ーそういえば、麻希は劇中で向井秀徳アコースティック&エレクトリックの「ざーざー雨」を、自作曲として口ずさみますね。

塩田:「はあとぶれいく」に関しては、向井さんに「その曲は全然違うエモーションで作ったものだから、その曲を使うのは違うんじゃないか」と言われて。それで「今から曲を作る時間ありますか?」と訊いたら、「あろうがなかろうが作らにゃいかんでしょう」って言ってくれたんです。まさに渡りに船というか、ありがたかったですね。

向井:まあ、麻希だったらアコーステイック・ギターじゃなく、テレキャスでガシガシ刻むようにして歌うだろうな、というのはすぐに思いつきました。そして、シンプルなエイトビート。歌詞はキャラクターを意識しすぎないようにしました。意識するとありきたりな歌詞になってしまいそうで。そこで「排水管」という言葉が出てきた時は、これ、いいんじゃないかって思いました。自分の歌詞で使ったことがない言葉だったし。

塩田:歌詞についても何も言わなかったんですけど、「排水管」っていう曲名を聞いた時に勝利を確信しましたね。

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