ミツキが語る「音楽から離れたのは、音楽を愛するためだった」

ミツキ(Photo by Josefina Santos for Rolling Stone)

弱さをあらわにする曲作りで彼女はスターになった。しかし、その意味するところを受け入れるのは難しかった。3年半ぶりとなる最新アルバム『Laurel Hell』をリリースしたミツキ(Mitski)が、再び戻ってくる理由を明らかにしてくれた。


ナッシュビルのスタジオにて

31歳のミュージシャン、ミツキは悪夢にうなされている。パフォーマンス不安の夢には常に悩まされてきたが、最近はより恐ろしく、より複雑になってきたという。そのうちのひとつでは、自分の猫が木から降りられなくなってしまったことから、サウンドチェックに遅刻してしまう。やっとの思いで会場に着いたら次は、一度もリハーサルをしたことのないオーケストラと共演することを知らされる。

「みんなから白い目で見られました」。思い出しながらミツキは話してくれる。「私がボーカルのウォーミングアップをし始めたら、オーケストラ全員が『いいアイデアだ』と言って自分たちもウォーミングアップをし始めたんです。自分の声が聞こえなくなったから、会場の奥へ奥へと進み続けていたら、迷子になって……」。

2年間の活動休止期間を経て、復帰の準備をしているからこんな夢を見たのだろうか。あるいは、前回の2019年末のステージが、彼女のキャリアの最終公演となるはずだったからかもしれない。いずれにせよ、彼女は途中で話すのをやめようと思ったようだった。「夢の話なんてつまらないでしょう?」。

インディー・ロック界で最も魅惑的で謎めいたミュージシャンの夢の話なら、誰だって聞きたいだろう。ミツキの音楽は、彼女のオーディエンス――歌詞を体に彫る熱烈なファンから、2018年のシングル『Nobody』のTiktokをポップカルチャー・サイトが取り上げざるを得なくなるほど大量に作ったもう少しだけカジュアルなファンまで――の奥底にある何かに語りかけている。彼女はこの日、ライトウォッシュのデニムジーンズ、ラベンダーの長袖シャツ、ブルックスのプリムローズのランニングシューズという控えめな一般人風の服装で迎え入れてくれた。2年前に世間が最後に目にした姿が、バイカーショーツとニーパッドの衣装だったことを踏まえると、これはちょっとしたショックだった。

わたしたちはナッシュビルのスタジオ〈ボム・シェルター〉で11月初旬に会った。ミツキはハロウィンが終わってしまったことに納得がいってないようだった。「ホラー映画でも見ようかな」。彼女はつぶやいた。「10月を好きなだけ引き延ばせるから」。

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〈ボム・シェルター〉の中を歩くと、友人の秘密のクラブハウスを歩いている気分になった。ドラマ『サクセッション』(キング・オブ・メディア)のケンダル・ロイは、40歳の誕生日パーティーのVIPセクションをこんな感じにしたかったのかもしれない。居心地がよく、木製の壁や天井にはレコードのジャケットが貼られている。キッチンカウンターには落ち着いた植物が飾られていて、棚には鋳鉄製のスキレットがぶら下がり、電子レンジの上には巨大な容器に入った蜂蜜が置かれている。マーゴ・プライス一家から届いた来たクリスマスカードが、消火器の横に貼ってある。

ミツキはベタなジョークをつぶやきながら煎茶を淹れてくれた。ポットでお湯を沸かし(「見張っているうちはお湯は沸かないっていうでしょ......」)、「I♡NY」ロゴの入ったマグに注ぐ(「ニューヨークをラブしてるかって言われると、ね」)。2年前にナッシュビルに引っ越したとき、そのことを当時はほとんど誰にも話さなかったという。「ナッシュビルにようやく愛着が湧いてきた気がします」と彼女は語る。「ロサンゼルスやニューヨークには行きたくなかったんです。せっかく仕事を辞めるのに、信じられないほど競争の激しい、物価の高い都市に住むべきじゃないと思ったから」。

けれど、ミツキは仕事を辞めなかった。このスタジオで彼女は新しいアルバムを作り、自分にはまだ作るべきものがたくさん残っていることに気づいたのだ。

Translated by Akira Arisato & Kei Wakabayashi

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