セレブが熱狂する「類人猿」をデザインした女性

「パンクなサルにしたいんだ」

当時SenecaはNFTを知らなかったが、Yuga Labs社はコラボレーションで彼女の好きなようにさせた。「会社からは、『パンクなサルにしたいんだ。どんな外見だと思う? どんなスタイルにしたい? どうすればカッコよくなると思う?』と言われました」。彼女は類人猿が一市民として闊歩する荒廃した街で、自分の家の隣にサルが住んでいる、と想像してみた。彼女は「人生に疲れ果てて飽き飽きしているが、金と時間をたっぷり持て余し、メタル系のバーにたむろしているサル」を思い描き、サルとの架空の交流を夢想した。「そこからアイデアが膨らんでいきました」

サルの外見は彼女の中から自然に湧き出た。自称メタルヘッドのSenecaはギブソンSGを演奏し、メガデスやベヒーモス、ブレット・フォー・マイヴァレンタインといったバンドを聴く。同時に、90年代のグロスアウト・アニメの大ファンで、今回もそこから着想を得た。

誤解のないように言っておくと、プロジェクトに関わったイラストレーターはSenecaだけではない。「私はオリジナルコレクションに携わったメインのアーティスト」と彼女は言い、サルの身体そのものは「文字通り、線の1本1本に至るまで」自分が描いた、と付け加えた。他の制作アーティスト――Gargamel氏によれば「トーマス・ダグレイ、Migwashere、それから匿名希望が2人」――も様々な特徴や背景に携わった。だが本人も指摘しているように、むっつりした口元や見開いた目、ベレー帽など、主な特徴のいくつかは彼女の手によるものだ。

「あのイラストを描いたのが私だってことを知ってる人はそう多くないわ。それってアーティストとしては最悪よね」と本人。もっとも噂は広がりつつあり、これをきっかけに次のコラボレーションにつながれば、と本人も期待している。それまでは、彼女はソロ活動に専念している。

12月、Senecaはマイアミのアート・バーゼルで、自分名義では初のNFT作品『Iconoclast』シリーズを披露した。今回出品した4点はイーサリウムで発行され、Internet Computerというブロックチェーンにホストされた(Internet Computerにホストされるということは、すなわちNFT作品が削除される心配やクラウド障害といった問題に脅かされることなく、公共のブロックチェーンに永遠に残ることが確約される)。

4作品は最終的に23.7イーサリウム、記事掲載時のレートで8万4000ドル相当の収入を生んだ。これで十分生活費を払い、2月に発表予定の次回作の制作に専念する余裕ができる、と本人は言う。さらに彼女は何年もかけて培った、今なお進化し続ける魅惑的なスタイルを開花させようとしている。「彼女のアートは成長する1人の女性を彷彿とさせます」と言うのは、Senecaが大好きなTVゲーム『アリス マッドネス リターンズ』のアートディレクター、ケン・ウォン氏だ(ウォン氏は上海勤務時代にSenecaと顔を合わせている。Senecaの通う高校にウォン氏が講演した際、彼女のほうから彼に声をかけた。「彼はまさに(私を)イラストレーションの世界に誘ってくれました」)。「Senecaの作品を一言で表現するなら、ポップ・シューレアリズムでしょうか。それでも言い足りないでしょうね……彼女は探究しています。既存の表現の中から、自分なりの表現を模索しています。様々なスタイルを試しながら、進化し続けているんです。とても共感できますね」


2021年のアート・バーゼルに出品されたSenecaの作品『Delirium』(Courtesy of Seneca)

Translated by Akiko Kato

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