グラミー賞は「おかしい」のか? 確かに存在する現実として受け取るべきか?

最多ノミネートはジョン・バティステで11部門

ただ、グラミー賞も過去数年の批判を踏まえて変わろうとはしている。今年度の一番大きな変化は、ノミネーション選定時のブラックボックスだった秘密委員会の撤廃。ザ・ウィークエンドがノミネート数0となったとき、特に問題視されたのが秘密委員会の存在だった。その代わり、今年度からは1万人を超えるグラミー賞会員の直接投票で候補が決まることになった。主要部門のノミネート枠も8組から10組に変更して門戸を広げている。

ではその結果はどうなったのだろうか? 最多ノミネートはジョン・バティステで11部門、ドージャ・キャットとジャスティン・ビーバーとH.E.R.が8部門、そしてビリー・アイリッシュとオリヴィア・ロドリゴが7部門と続く。

ビリーやオリヴィアやドージャは順当だが、ジョン・バティステの圧倒的なノミネート数には疑問の声も多い。バティステは映画『ソウルフルワールド』の劇中音楽を担当し、(グラミー賞授賞式が生中継される)CBSのトークショー番組でハウスバンドのリーダーを務める人物。音楽的には多才だが、同時に無難なアーティストだとも言える。

ほかにも批判が多いのは、グラミー無冠のアバが40年ぶりの新作で主要部門にノミネートされたこと、BTSがあれだけ全米大ヒットを飛ばしながら今年も主要部門にはノミネートすらされなかったこと、昨年は女性のノミネートが多くて称賛されたロック関係の部門がどれも大御所の男性アーティストばかりに戻ってしまったこと、などだろうか。

確かにどれも苦言を呈したくなるのはわかる。だが、批判は一旦置いておき、今年のノミネーションを客観的に見て明らかになった事実があるとすれば、なにも秘密委員会の存在がグラミーを歪めていたわけではないということだ。会員の直接投票の結果がこれだとすれば、やはりグラミーは米国音楽業界の保守的な価値観の表象にほかならない。時にはそこに不満をぶつけたくなるもなるだろう。ただ、いまだにグラミーのような価値観が強固に存在すること――それもひとつのリアリティなのだと我々が理解することの方が大事なのではないだろうか。

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Edited by The Sign Magazine

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