グラミー賞は「おかしい」のか? 確かに存在する現実として受け取るべきか?

11部門でノミネートされたジョン・バティステ(Photo by Josh Brasted/FilmMagic)

音楽メディアThe Sign Magazineが監修し、海外のポップミュージックの「今」を伝える、音楽カルチャー誌Rolling Stone Japanの人気連載企画POP RULES THE WORLD。ここにお届けするのは、2021年12月25日発売号の誌面に掲載された、第64回グラミー賞のノミネーションを受けて書かれた記事。

最近はノミネーションが発表されるたびにリスナーやメディアやアーティストから批判や不満が噴出するのが恒例となっている。だが、本当はこの事態をどのように受け止めるべきなのだろうか?

ここ数年、グラミー賞のノミネーションが発表されるたびに、リスナーやメディアからの批判が噴出することが恒例となっている。昨年はザ・ウィークエンドが大ヒットを飛ばしながらも、ノミネーション数0だったためボイコットを宣言。それ以前からも性差別や人種差別的な傾向が問題視され、批判は絶えなかった。もちろん理不尽な差別は一刻も早く是正されるべきだ。ただ差別の問題を差し引いても、グラミーが熱心な音楽リスナーの感覚からズレていることは何も今始まったことではない。そもそもグラミーは極めて保守的で権威主義的な賞である。2010年代に入るまでは鼻にも掛けないというスタンスのリスナーやアーティストも多かったはずだ。

ところが、2010年代はグラミー賞に再び人々の注目が集まるようになった。それは今振り返れば、2010年代半ばが商業性と芸術性が両立したポップ音楽の理想的な時代だったことも関係しているだろう。その年のもっとも先進的な作品がもっとも権威のある賞にノミネートされる――誰もがそれを期待することが許された数年間が奇跡的に存在したのである。だが、その状況も徐々に変わってきた。それはグラミーが時代に置いていかれたというよりは、そもそも保守的で権威主義的だったグラミーの価値観と進歩的なリスナーやアーティストの価値観が再び乖離した結果でしかない――そんな風に捉えることも出来るのではないか。

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