スピルバーグ節全開、『ウエスト・サイド・ストーリー』が問答無用の傑作となった理由

スピルバーグならではの再構築

オリジナル版と同じスティーヴン・ソンドハイムによる歌詞とレオナルド・バーンスタインが手がけた楽曲の組み合わせは、まるで天国(あるいはブロードウェイの46番街というべきか)で生まれたかのように完璧であり、ロミオ&ジュリエットを思わせるプロットとも見事にマッチしている。振付師のジャスティン・ペックは、ジェローム・ロビンスが生み出したあの有名なダンスに新たな解釈を加えつつ、親切な店員のドックをリタ・モレノが演じるプエルトリコの女番長ヴァレンティに置き換えることで、彼女の見せ場をしっかりと作っている(第三幕で彼女がアニータをジェッツの連中から救い出すシーンでは、モレノが過去の自分に救いの手を差し伸べているかのような既視感を覚える)

サウンドとヴィジョンによって物語を紡いでいくさまは、まさにスピルバーグの才能と手腕の真骨頂だ。彼と撮影監督のヤヌス・カミンスキーが考案した、大乱闘の勃発前に挿入されるドイツ印象派を想起させる革ジャンを着たタフガイたちのちょっとした仕草など、シンプルだが徹底したこだわりも随所に見られる。それは単なるエンターテインメント性や教訓よりも、彼がどこまでも純粋なムービーメイキングに心酔している証拠だ。


スティーブン・スピルバーグ監督 (C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『ウエスト・サイド・ストーリー』は、ソックホップの時代へのオマージュであると同時に、現代の観客にアピールする大衆性をしっかりと備えている。この2つの目標は時に相反するが、もし成立させることができれば、緊迫感が生み出す興奮を別次元にまで高めることができる。オリジナル版は演劇を志す者にとってのバイブル、ひいては一般教養として数十年に渡って愛され続ける中で、そのエッジは徐々に失われていった。本作は鈍ってしまったその刃先を磨き、過去と現代のどちらの視点で見ても欠点が存在するにもかかわらず、この作品が金字塔であり続けている理由を改めて提示している。

この『ウエスト・サイド・ストーリー』は、歴史を完全に書き換えてしまわなくとも、その土台に則って優れたものを生み出すことが可能であるという事実を証明している。スピルバーグの作品としても、ハリウッド映画としても、本作は問答無用のクラシックだ。今作がこの10年間における唯一のミュージカルだったとしても、人々は今という時代をルネッサンスの全盛期として記憶するだろう。

From Rolling Stone US.




『ウエスト・サイド・ストーリー』
日本公開日:2022年2月11日(祝・金) 全国の映画館にてロードショー
全米公開:2021年12月10日
© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
■製作:監督:スティーブン・スピルバーグ
■脚本:トニー・クシュナー
■作曲:レナード・バーンスタイン
■作詞:スティーブン・ソンドハイム
■振付:ジャスティン・ペック
■指揮:グスターボ・ドゥダメル
■出演:アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、アリアナ・デボーズ、マイク・ファイスト、デヴィッド・アルヴァレス、リタ・モレノ

公式サイト:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/westsidestory

Translated by Masaaki Yoshida

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