オーロラが自由を追い求める理由「音楽やダンスは生きてる意味そのもの」

 
不完全さをもっと讃えていい

―そんな場所で作られた『The Gods We Can Touch』はコンセプト・アルバムで、どの曲もギリシャ神話に登場する神々に関連付けられています。そもそもあなたが神話に興味を持ったきっかけは?

オーロラ:ギリシャ神話もそうだけど、これは広い意味での宗教と人間についての作品。3年くらい前から宗教とその歴史について本を読むようになったのだけど、それがすごく興味深くてね。例えばこういうこと。遥か昔、人間は万物に神が宿っていると考えていて、土、木、水、全てを崇拝していた。それが時間の経過と共に、信仰は精神的なものから「やるべきこととやってはいけないこと」といった規範の文脈で語られるようになっていった。その過程で、ひとは地上にいる存在だった神を遠い天上へと遠ざけてしまったの。どうしてそうしたのか、私にはわからない。ただ、歴史を紐解くと、西洋諸国は決していいとは思えない行ないをたくさんしてきたのも事実で。そのこととひとが神を遠ざけたことは、関連しているのだろうかと考えてみた。私たち人類はいま、この地球を死に追いやっているでしょ。もし、いまでも地上のあらゆるものに神が宿っていると人間が信じていたら、果たしてこんなにも地球を壊していただろうかと考えたの。ひとが神を信じていたら、もっと自然を尊重したんじゃないかなって。そういう観点からギリシャ神話に興味を持った。ギリシャ神話は神のなかの人間くさい部分を上手く取り入れていて、どの神も決して完璧ではなく、どこか不完全なのね。そういう不完全さを私たちはもっと讃えていいんだって思ったの。



―『The Gods We Can Touch』……“私たちが触れられる神々”というタイトルは、そこから来ているわけですね。つまりギリシャ神話における神々が不完全であるように、人間も不完全で、その不完全さのなかにひとがどう生きていくかのヒントがあるんじゃないかと。ギリシャ神話を介在させながら、人間の哀しみや痛みや欲望や恐怖や情熱や願いや理不尽さを表現しようと試みた、これはそういう作品であると。

オーロラ:人間は不完全だからこそ面白いし、魅力的だし、素敵なんだと私は思うの。不完全だからこそ、私たちは自由でいられる。「あのひとみたいな容姿にならなければ」なんていう考え方には違和感があるし、「誰々と同じようになりなさい」という押し付けもおかしいわ。だって私たちはありのままで生きていいように生物的に組み込まれているのだから。そもそも「完璧」なんてものはないと思うのね。だから完璧を求めて自分に厳しくなりすぎるのはよくないし、ありのままの自分を恥ずかしいと思ってはいけないと思う。自分の容姿にしても性的指向にしてもそう。何かに対する「自信の持てなさ」は否定すべきことじゃなくて、むしろ大事なことだと思うの。

―先行シングルの「Cure For Me」は、コンバージョン・セラピー(主に同性愛者を異性愛者に矯正または転換させるために行なう転向療法のこと)にインスピレーションを受けて書かれた曲とのこと。「私は治療薬なんていらない」「どうか治そうとしないで」と繰り返し訴えてますね。この曲がまさにそうですが、“ありのままであれ”というメッセージは、あなたが音楽を続ける上でとても重要なものであるように感じます。自分らしくあり続けるのが難しくなっているこの世界で、だからこそそのことを強く伝えたいのだというあなたの思いが、このアルバムを作らせたんだなと思いました。

オーロラ:その通りよ。いまは誰もが周囲の目に晒されていて、どういうわけか世界に向けて自分を見せなきゃいけないといった強迫観念を持ちながら生きているひとも多い。携帯を通じてそれが容易くできるようになったからね。でも、みんなに自分をどう見せようかって考えること自体、不自然じゃない? 作りあげたり加工したりしてネットで自分を見せているうちに、それは実際の姿とは違うということを自分でも忘れてしまう。そのほうが怖いと私は思うのね。周りと違っていていいんだし、浮いてたっていいと思うの。どんなひとでも人生で必ず一度くらいは、自分は周りから浮いてるなって感じたことがあると思う。自分はどっかおかしいのかな、とかね。でもそれは普通のことだし、恐れる必要なんてない。私の音楽を聴いたひとが、「そんなふうに考えてしまうのは自分だけじゃないんだ」「自分は自分のままでいいんだ」って思ってくれたら嬉しいな。私自身、なかなか周りに溶け込めないでいた時期が長くあったから、余計にそう思うの。



―今作で、サウンド面に関してこだわったのは、どういうところですか?

オーロラ:遊び心を大切にするということ。自分のなかのあらゆる面を受け入れたくて、それにはいろんなサウンドを試してみるのがいいんじゃないかと思ったの。シリアスな面もあるけど、今回はユーモアもたっぷり入っている。私自身がそういう人間だからね。遊び心を忘れず、自由にいろいろ試して、生き生きとしたサウンドのアルバムにしたかった。

―以前ほどダークでヘヴィなサウンドではなくなったし、エレクトロニックなサウンドによる幻想的な表現も後退しているように感じました。それよりも、まさしく生き生きとしたサウンド、生命力や躍動感の感じられるサウンドが印象的で。曲によってはサンバやサルサのリズムを取り入れるなど、あなたの言うように遊び心が感じられる。そうした印象の変化は、意図したものだったのですか?

オーロラ:アルバムは常にそれまでと違うものにしたいと思っている。私の声やメロディーや歌詞には予め「オーロラらしさ」があることがわかっているから、それを包むサウンドに関してはいくらでも試せるなと思っていて。着る服を変えても、私の音楽にある魂は変わらない。だったらいろんな服を着てみたほうが楽しいからね。私は女性で、いろんな面を持っている。女性に限らず、みんなそうよね。だから同じことばかりするのではなく、あらゆる可能性を探求したいと思っているの。

Translated by Yuriko Banno

 
 
 
 

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