渡瀬マキが語る半生「歌うことを息をするぐらい普通のことにしたい」

―『Essay 渡瀬マキ エッセイ』は電子書籍で配信されていますが、これはどんなきっかけで書くことになったのでしょうか。

ちょうど、私がお休みをさせていただいているときに、お話をいただいたんです。最初は、自分のことを包み欠かさず書かなきゃいけないことが……まあ、包み隠してもいいんですけど(笑)、ある程度そういうことを書くということに、ちょっと抵抗があったんです。だけど、なんでもそうなんですけど、そのときに最適なものがくると思うんですよね。だから、そうやってお話をもらったことも、きっとそういうタイミングなんだろうって解釈して書くことになりました。あと、自分の人生を振り返るというのもいいかなって。

―そのエッセイの中で、「この30年間、“前向き”という言葉に押しつぶされそうになったときもあった」という記述が印象的でした。どんなお気持ちで書いた文章なのか、教えてもらっても良いですか。

“前向き”というLINDBERGのテーマが重かったんですよ。人間なので、全然前向きになれないときだってあるじゃないですか(笑)? だけど前向きじゃないといけない、こうじゃなきゃいけない、「渡瀬マキってこう思われているんだからこうあるべきだ」っていう。それって、よく考えたら自分で勝手にそういうルールの中に自分を閉じ込めているだけであって、別にそんなことどうでもいいのに、自分でがんじがらめにしてガチガチに固めちゃっていたんです。それはその最中にいるとわからないことで、時間が経ったらわかることなんですけど。当時、がんばること、一生懸命やることがカッコ悪いみたいな時代でもあったんですよ。でも、求められるものってそうなんですよね。「元気が出る曲、元気が出る歌詞をお願いします」って。「GAMBAらなくちゃね」という曲があるんですけど(1994年リリースの19thシングル)、その曲の歌詞を書くときも、“がんばれ”というフレーズを入れてくれって、レコード会社の方から言われたんです。でも、「えっ、私がんばれとか言いたくない」と思って。正直に、「もうそんなのしんどい」って言ったんですよ(笑)。それで、スタッフとものすごくディスカッションした結果、自分の中に落とし込めたのがこの「GAMBAらなくちゃね」なんです。「がんばれ」と「がんばらなくちゃね」っていう、一見あんまり変わらないような言葉に聴こえるんですけど、自分の中では大きく違っていて。決して人を「がんばれ!」って応援しているわけでもなく、まるで独り言のように、「がんばらなくちゃね」って言ってるような、それだったら書けるなって、ストンってそこに自分の落としどころをつけたんです。それと同時に、歌詞の中に〈さがしてた ダイヤモンド 見つけたけれど 時々淋しくもあるよ〉というフレーズがあるんですけど、そこに本心を書けたことによって、すごく自分的にはスッキリしました。決して本当に前向きばかりじゃないんだっていうことを、そこに正直に書くことができたから、自分の中ではそこで片付いたというか。

―それによって、“前向き”という言葉自体も、渡瀬さんの中で変化したということでしょうか。

そうですね。直接的に励ます言葉がなくても、1人の人物像を歌詞の中に登場させることで、全体像でそれを伝えるとか、違った方法でそれを書けるということを学んでいった感じです。

Rolling Stone Japan 編集部

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