Black Country, New Roadが語る「脱退」とその先の人生、若者が大人になること

ブラック・カントリー・ニュー・ロード(Photo by Rosie Foster)

 
今からお届けするのは2月1日に行ったブラック・カントリー・ニュー・ロード(Black Country, New Road、以下BCNR)のインタビューでの会話だ。その前日の1月31日、バンドは結成時からのメイン・ヴォーカルで作詞を担当してきたアイザック・ウッドの脱退を発表した。

正直、このタイミングでの取材は難しいかなと延期や中止の可能性も覚悟して臨んだが、インタビュイーの二人──タイラー・ハイド(Ba)とチャーリー・ウェイン(Dr)はとても穏やかに、新作について、そしてアイザックやバンドのことについて答えてくれた。

まだ20代前半の彼らの成熟に驚かされるのは、人間性についてばかりではない。むしろその音楽こそ彼らの驚異的な成長を物語っている。2月4日に発売された2ndアルバム『Ants From Up There』は、わずか1年前にリリースされた前作『For the first time』からの飛躍的な進化を物語る作品だ。彼らの音楽的な才能──アイデアの豊富さやそれを実現する演奏や作曲の技術力の高さが遺憾無く発揮されており、このアルバムを20代前半の若者たちが、著名なプロデューサーを雇うといったことをせず、ほぼ独力でバンドとして作り上げたことは驚嘆に値する。

Z世代(BCNRがしばしば抗ってきたラベリングだ)の若者たちによる極めて冒険的で志の高いチェンバー・ロック……音楽的にはまずはこのように表現できるこの作品が、しかし本当の意味で素晴らしいのは、技術的な洗練以上にポップ・ミュージックとしてのリスナーとの感情的な繋がりを強く求めているからだ。このあとの本文にもある通り、僕はこのアルバムを大きく言えば「若者が大人になること」がテーマの作品だと思った。だから文脈は違っていても、インタビューの最後に、タイラーが人生について話してくれたことには何らかの意味を感じた。

今この文章を書く手元には『Ants From Up There』のCDのボックスと付属のブックレットがある。その中には、ワイト島でのレコーディングの時期に撮ったと思われる7人の親友たちの本当に楽しそうな写真がいくつも収められている。ポップ・ミュージックは、人生から生まれてくる。『Ants From Up There』を聴く時、あなたはきっとずっと、そのことを思い出す。


左からアイザック・ウッド(Vo,Gt)、ジョージア・エラリー(Vln)、ルイス・エヴァンス(Sax)、メイ・カーショウ(Key)、タイラー・ハイド(Ba)、ルーク・マーク(Gt)、チャーリー・ウェイン(Dr)


―素晴らしいアルバムを届けてくれてありがとうございます。前作についてメンバーのどなたかがミックステープに喩えていてなるほどなと思ったのですが、対して今回のアルバムは全体のスルーライン(物語の要素をまとめる一貫したテーマ)を意識したという意味でも、バンドの新しい1stアルバムと呼べる作品になったと思います。

チャーリー:うん、僕もそう思う。もちろん前作も気に入っているけど、当時は曲のコレクションを作ること以外はあまり意識していなかった。でも今回は、スルーラインを持たせて、一つの大きな作品としてアルバムを作り上げることが目標だったから、それを感じ取ってもらえてすごく嬉しいよ。

―全体的に前作よりも遥かに構築的で、アコースティックな楽器のサウンドが強調されています。前作から今作に至る一番大きな変化は何だったと思いますか?

タイラー:いくつかあったと思うけど、一番大きいのは「誰のために音楽を書いたか」だと思う。私たちはこれまでずっと「自分たちのために音楽を書いている」と答えてきた。でも、今思うと最初のアルバムは完全にはそうではなかった。基本的にはギグでのパフォーマンスを元に曲が作られていたから、オーディエンスのリアクションを意識していた部分があったと思う。でも今回は(コロナ禍の影響で)ライブができなかったから、自分たちの判断力と分析力をもっと磨いて、何もかも100%を自分たちで判断しなくちゃいけなかった。バンドの間でたくさんディベートをして、全員が賛成するまで続けた。それが一番大きな変化。前回の何倍も頭の中で色々と練って作られたアルバムだと思う。



―スルーラインという点について、僕個人がアルバムから受け取ったのは「少年性をパッケージすること」や、そのための「儀式」、そして「死」といったイメージでした。改めて、あなた方がアルバムを作っている時に考えていたスルーラインについて、メッセージという面から教えてもらうことはできますか?

チャーリー:歌詞的には、あまりスルーラインは定義できないな。メンバー全員がそれぞれ違う意見を持っていると思うし、これがテーマだ、というハッキリしたものはないから。でも音楽的には、もしかしたら歌詞のスルーラインとも繋がるのかもしれないけど、アルバム全体で、悲しみや希望、ノスタルジアが表現されていると思う。僕らは、自分たちの友達と一緒に、自分たちの友達のために、アルバムの音楽を書いた。だからリスナーの皆がアルバムを聴いて、彼ら自身やその友人の経験と結びつけてくれたら嬉しいな。

―そうしたフィーリングは、どこからきたものだと思いますか?

タイラー:曲を書いている時は意識してなかったんだけど、アルバムをレコーディングする前、ツアーの間に書いた曲をメンバーの前で演奏していて初めて、「今はノスタルジックな音楽を作ってるんだな」って気づいたんだよね。そして、皆が曲に繋がりを感じてくれた。一人で曲を作っている時点では、その曲がどんな意味を持っていて、それを聴いて他の人がどんな気持ちになるのかは分からない。外に出して人の反応を見ることで、それに気づかされるんだよね。

―新作はワイト島の「Chale Abbey Studios」でレコーディングされたそうですね。ロンドンから離れた環境で、バンドと親しいエンジニアで離島に籠ってレコーディングをするという判断は、勢いに乗るバンドとしては大胆な選択だったと思います。同じタイミングで、ヒット・メーカーと働くことを選ぶバンドもいると思いますが、なぜ今回のような方法を採用したのでしょうか?

チャーリー:まず、レコーディング前に分かっていたことの一つは「ロンドンではレコーディングしたくない」ということだった。なぜかはわからないけど、メンバー全員がロンドンでレコーディングをするのは違うように感じていて、どこか海に近い田舎町に行きたがっていた。ワイト島は海を渡らないと行けないから、ロンドンから切り離された感じがすごく良かったんだ。

あと、もう一つ分かっていたのは「プロデューサーを雇いたくない」ということ。できるだけリアルなライブ・サウンドにしたかったからね。最終的にはサウンド・エンジニアのセルジオがプロダクションを手がけてくれて、彼と(Chale Abbey Studiosのエンジニアの)デイヴィッド・グランショウが、僕らが作ったサウンドをより良いものに進化させてくれた。セルジオは、すごくエネルギーとアイデアを持っていたし、これまでアルバムに関わったことが無かった分、お互いにとって新しい経験を得ることができたという意味ですごく良かったと思う。一方のデイヴィッドは経験豊富で、僕らの若いサウンドをキュレートしてガイドしてくれた。二人のおかげでレコーディング全体がすごく落ち着いて、リラックスして取り組めたよ。

Translated by Miho Haraguchi

 
 
 
 

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