ビッグ・シーフが語る、バンドの絆と探究心「私たちの音楽は道しるべであってほしい」

 
バンドという「家族」の旅

現代の生活に対するレンカーの不安は、新曲「Simulation Swarm」にもいくらか投影されている。レンカー曰く、「Simulation Swarm」は、ほかのソングライターであれば1枚のアルバムをつくり上げるほど濃密な一連の体験に基づいているのだ。そのひとつは、2020年5月にブルックリンの病院に4日間入院したこと。7年間のツアー生活を経て、レンカーの身体はとうとう悲鳴を上げた。ほかにも、2020年の傑作ソロアルバム『Songs』の着想源になった別れ、レンカー自ら「カルト教団」と呼ぶアメリカ中西部の分離主義者のコミュニティで過ごした幼少期や、会ったことのない実兄アンドリューについて(2017年のアルバム『Capacity』の収録曲「Mythological Beauty」など、過去にもレンカーは兄について歌っている)。

「Simulation Swarm」は、慎ましやかでありながらも聴く人の心を揺さぶる楽曲であると同時に、レンカーとビッグ・シーフがファンと育んできた強い絆を説明する上で欠かせない作品だ。レンカーは、この事実を先日のアコースティックのソロライブで痛感した。彼女が歌っているあいだ、観客は涙を流しながら互いの手を取り合っていたのだ。レンカーは、「すごい、本当に世界に届いてる」と思ったことを覚えている。「音楽のおかげで、暗い時代に誰かを愛し、自分自身を受け入れられるようになったという手紙をもらうことが増えた。これは、まさに自分が思い描いたことでもある。キャリアを通じて一定のレベルに到達したいとか、世間からああ見られたい、こう見られたいとは思っていない。私はただ、人々が自分自身に立ち返り、より完全な形で自分を受け入れ、愛し、許せるようになってほしいだけ。私の音楽は、みんなが自分に——私じゃなくて——近づくための道しるべであってほしい」



レンカーが自分と結びつきをより強く感じた新曲のひとつが、ニューアルバムのラストを飾る「Blue Lightning」だ。キャンプファイアを囲みながら合唱したい同曲は、レンカーが「自ら選んだ家族」と呼ぶバンドメンバーに宛てられたラブレターである。近頃、レンカーは、大人になってからの経験をソングライティングに取り入れることが増えている。「まだ子供時代を消化しようとしているの。でも、みんなそうでしょう?」と彼女は言う。「それでも、私たちは10年以上バンドとして活動している。彼らとの経験が増えれば増えるほど、それらを曲にすることも増えていく(……)最悪なことも最低なことも、世界でいちばん美しいことも一緒に経験してきた」

ビッグ・シーフは、メンバー共通の体験から生まれた集団的な喜びでアルバムを締めくくることにした。「Blue Lightning」でレンカーは道徳について考察する一方、メンバーに対して思いの丈を綴っている。「あなたが結ぶ靴紐になりたい」という一節には、そうした感情が込められているのだ。

「私たちの誰かがいつ死ぬかなんてわからない——これは、狂気じみていて、悲しくて、ほろ苦くて、あまりに美しいこと。それでも、友情はとても大切だと思う」とレンカーは語る。「私たちは道中で色んなことに出会ったり、色んな経験をしたりするし、夢や疑問を分析し、新鮮な空気を入れ、問いかけ、話し合うけど、結局は見つけられずに……」

レンカーは一瞬、間を置いた。

「ひょっとしたら正解なんてないのかもしれない。それでも私たちは、一緒に答え探しの旅を続ける」

From Rolling Stone US.




BIG THIEF JAPAN TOUR

2022年11月14日(月)梅田 CLUB QUATTRO
2022年11月15日(火)名古屋 CLUB QUATTRO
2022年11月17日(木)恵比寿 THE GARDEN HALL ※追加公演
2022年11月18日(金)渋谷Spotify O-EAST ※SOLD OUT

詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=3699




ビッグ・シーフ
『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』
発売中
国内盤CD:解説・対訳付き/ボーナストラック追加収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12242

Translated by Akiko Kato

 
 
 
 

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