MONSTA X密着取材 LAで語ったファンへの感謝、メンタルヘルスと人生設計

UK版ローリングストーン誌の撮影に臨むMONSTA X(Photo by Jesse DeFlorio)

 
過密スケジュール、熱狂するファンたち、インタビューの繰り返し、飲み損ねたカクテル……全曲英語詞の2ndフルアルバム『The Dreaming』(2021年リリース)の米LAプロモーション・ツアーに密着したローリングストーン誌UK版が、K-POPの巨星に求められる資質を探る。

【写真ギャラリー】MONSTA X、LAでの撮り下ろし(記事未掲載メンバー個別ショットあり)


「インタビュアーはどなたですか? おや……あなたですか。ずっと僕らと一緒にいますよね?」完璧なスタイリングに身を包んだ青年たちが、身振りを交えながら私を見やった。彼らの戸惑いには、不躾というよりも繊細で魅惑的な趣がある。アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスでプレスツアーを行うMONSTA Xを追いかけ回すこと3日。その3日目も終わろうとしていた。それなのに、無邪気にも彼らは、私が何者かを知らなかった。誰かがわざわざ私のことを紹介してくれたわけではないから、無理もない。ひとつの場所から次の場所へと目まぐるしく移動するため、メンバーの周りにいられるのは、せいぜい7人が限界だ(オーバーすることも多々あった)。だから、自己紹介をしてまで軍隊並みに正確なスケジュールを乱すまいと思っていたのだ。メンバーのI.Mが思案顔で一歩前に出て、私と握手をした。「てっきり、僕らの関係者だと思っていました」と、申し訳なさそうに言う。もしかしたら、グループの所属レーベル・BMGの社員か、びっしりと埋まったスケジュールをこなせるようにと派遣されたPRアシスタントだと思われていたのかもしれない。

MONSTA Xのチームは、ヘアスタイリストやメークアップアーティストの華やかな面々、アメリカとイギリスのPR担当、BMG社員の集団、さらには写真家やコンテンツクリエイターたちで構成される。この「太陽系」の真ん中でMONSTA Xよりも強い存在感を放つ男性がいる。彼こそ、神出鬼没の風変わりなグループのマネージャー、イーシャイ・ガジット氏。いついかなるときも最低3点はラグジュアリーブランドのアイテムを身につけて登場し、「K-POP界のスクーター・ブラウン」を自称することを憚らない人物だ。そんなガジット氏でさえ、グループの発言をそう簡単に打ち明けてはくれない。というのも、メンバーの発言は徹底して考え抜かれたものでなければいけないからだ。ガジット氏は、説明のつもりで「ファンたちは」という枕詞を欠かさない。たとえK-POPに詳しくない人でも、好戦的で熱狂的、そして積極的にネットを活用するK-POPファンの典型例をご存知だろう。実際ガジット氏は、新作ドキュメンタリー『MONSTA X: THE DREAMING』の中でグループの成功と重要性について好意的かつ当たり障りのない言葉で解説している。



ロサンゼルスでのMONSTA X(Photo by Jesse DeFlorio)

『MONSTA X: THE DREAMING』で描かれていることは事実だ。メンバーは自分たちのことを親友、あるいは彼らの言葉を借りるなら「兄弟」と表現する。舞台裏では冗談を言い合い、ハグを交わし、互いの肩を抱きながら歩き、誰かが動揺すれば助け舟を出す。お馴染みのポーカーフェイスから放たれるユーモアを交えながらI.Mは、一緒にシャワーを浴びるようになった頃から兄弟愛が芽生えはじめたと明かしてくれた。「デビュー当時は、バスルームがふたつしかありませんでした。ですから、自分の番が来るまで待たなければいけません。でも、そうすると時間がかかりすぎます。時間を節約するために、シャワーブースを一緒に使いはじめたのです」。デビュー以来、彼らはずっと生活を共にしている。彼らの共同生活は、グループ解散まで続くだろう。K-POP界では決して珍しいことではない。

だが、メンバー同士の関係性はかなり特殊だ。K-POPグループの中にはメンバー同士が不仲なグループがあることも、彼らは自覚している。KIHYUNは、MONSTA X流のコミュニケーションは意見の不一致——場合によっては変動性が必要なことも——にあると言う。彼ら独自の手法だ。「全員が男兄弟しかいない家庭からきているせいかもしれません。だから、率直になれるんです」とKIHYUNは言う。「メンバー同士の仲が悪いと、ステージでのパフォーマンスに現れます」。彼らの化学反応は、振り付けのディテールからその日のランチに至るまで、ありとあらゆる判断が多数決で決められることから生まれる。


ロサンゼルスのファンイベントに臨むMONSTA X(Photo by Jesse DeFlorio)

一般リスナーは、MONSTA Xと言われてもピンとこないかもしれない。知っているのは、K-POP史上最大のボーイズグループ・BTSくらいだろう(2022年現在、BTSはビリー・アイリッシュやマイリー・サイラスと同じくらいお茶の間に浸透した)。MONSTA Xは、BTS同様に韓国が世界に放つビッグアーティストのひとつだが、彼らの作品は音的にもエッジが効いていて、一か八かのドラマを描いた歌詞が特徴的だ。90年代のボーイズバンド特有の危ないロマンスと戯れる一方、ハードなリフやラップもこなす。グループのラッパーのひとりであるJOOHONEYは、母国における2010年代中頃のアイドルラッパーを取り巻く鼻持ちならない上流崇拝の払拭に一役買った人物だ。最年長メンバーのSHOWNUが兵役に行ってしまったことを踏まえると、今回のプレスツアーのねらいは、MONSTA Xに本来備わっている6人のエネルギーが5人でも生み出せることを証明することにある。

Translated by Shoko Natori

 
 
 
 

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