西岡恭蔵「最愛の妻・KUROとの別れから晩年のアルバムをたどる」

恋が生まれる日 / 西岡恭蔵

田家:明るい曲ですね。

中部:KUROさんは1997年4月に亡くなられるんですけど、その前に予定していたアルバムの中にあった曲なんです。それが『Farewell Song』になってしまうんですけど、その前は『恋が生まれる日』というアルバムタイトルにしようとしていたらしいんですね。だからこれはタイトル曲で、明るいというか「まだ一緒に生きようよ」という思いで……。

田家:前向きな歌ですよね。

中部:喜びに溢れているんですね。でも、それを知るとますます悲しくなっちゃうんだけど、やっぱり恭蔵さんはKUROさんに対して「元気でいようよ」という気持ちがものすごいんですよね。

田家:彼女も病魔と闘っているわけで、彼女に向かってこういう歌を送ったと。KUROさんが亡くなったのが1997年4月4日午後8時20分で、余命宣告の日の日記も中部さんが紹介されていて……。

中部:日記が残っていることも奇跡的だったんだけれども、そこに〈KUROは本当に可愛い〉って書いてあるんですよね。〈純粋無垢な少女の様な可愛らしさ〉だって書いているんですよ。

田家:その一方で、〈君さえ居れば… 君さえ居れば…〉って自分を責めているという。

中部:やっぱりそれは人の心の複雑なところだし、KUROさんが病気になったのは自分がいけなかったんじゃないか、ストレスをかけたんじゃないかという思いももちろんどこかであるわけですよね。その一方で、愛してきた奥さんが輝くように見えているんですよ。そういう心境に本当になれるのかなって。今度はいきさつを知った自分が問われているような(笑)。

田家:僕もそう思いましたよ、読んでいて。俺はこういう気持ちになれるかなと思いましたね。

中部:そこは、「夫婦愛」とか漢字3文字くらいで書いちゃうことなのかもしれないんだけど、本当にそういうふうになれるのか、お前は……ってことを最後、恭蔵さんは無邪気に問うているというね。

田家:レコーディングされたのが7月25日から7日間ということで、KUROさんが亡くなってから3ヶ月あまり。

中部:相当、恭蔵さんもこたえたと思うんですけど、やっぱりそれをなんとか生きる力に変えなきゃいけないという決意が、ここでものすごく見えるんですよね。この『Farewell Song』というアルバムは。

田家:その中から中部さんが選ばれた4曲目です。「街角のアコーディオン」。

Rolling Stone Japan 編集部

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