西岡恭蔵「最愛の妻・KUROとの別れから晩年のアルバムをたどる」

Farewell Song / 西岡恭蔵

田家:ハワイアンのような、ユートピアのような歌ですね。

中部:これがお別れの歌だというね……KUROさんに対してお別れをする歌だということで作っているんだけど、お見事としか言いようがなくて。悲しいときに悲しい歌を作って、聴く人たちに悲しみを押しつける。そういう人たちも世の中にはいるわけですよ、フォークとか言われている人にもいるだろうし。そういうことを恭蔵さんはしないんです。それを言っちゃおしまいだっていうことは絶対しないんですよね。その見事さというのは、この歌に本当に表れているなと思いました。

田家:冒頭の〈島を旅立つ あなたに〉って、恭蔵さんは志摩の人なわけでしょ。自分のことでもあるのかなと思ったりして聴いたんですけど、恭蔵さんが本当に旅立ってしまったのは1999年4月3日、KUROさんの命日の前日。そのときのいろいろな方々の反応は中部さんがお書きになった『プカプカ 西岡恭蔵伝』のプロローグ、最初に紹介されていますけれども。大塚さんのコメントとか、演出家の久世光彦さんとか、山下達郎さんの反応とかね。

中部:やっぱり驚いたというのがみなさん正直なところなんでしょうけれど、1人1人の人生を他人が分かろうとすること自体、どだい無理なことかもしれないので、ほんのちょっと分かったぐらいのことしかなかったんだけれど、この時期の恭蔵さんは明らかに生きようとしています。その後のスケジュールがあったとか、60歳になったらワールドツアーをやりたいとか、いろいろなことをおっしゃっているんだけど、生きるエネルギーが十分にあったと思うんですよ。それがやっぱり、病というか、病魔に襲いかかられたというのが恭蔵さんの最期だったとは思いますけれども。そのエネルギーのたしかさを友人や音楽仲間などみんな最後まで信じていますよね。

田家:なるほどね。それで、亡くなる前にお遍路さんに行くって……この話は壮絶でしたね。

中部:お遍路さんに行くのがどういう心境だったかというのは、非常に難しいところがあるんですけれども、現世利益的なものではないわけですよね。来世で幸せになれるようにということでやるそうなんですけども、それで恭蔵さんのお遍路行きを止めた人たちもいるんです。でも、お遍路をやったら元気になったと言うんですよ。だったらそれでいいやっていう話なのかもしれないけれど、やっぱり恭蔵さんは生きるということと死ということをギリギリ自分の中で考えていたということなんでしょうね。

田家:そういう話や取材を、亡くなった当時には知らなかった中部さんがたどり直しているわけでしょう?

中部:それをたどり直せたのは、僕にとっては大変うれしかったんです。誰でも知っているような人ではないから、すぐに本になるとか、どこかで連載させてくれるということではなかったけれど。

田家:書き下ろしですからね、これは。

中部:ちょっと僕も意地になっていたところがあるんだけれども(笑)、取材をして恭蔵さんの生涯を知って、本当にファンでよかったと思いました。僕が思っていた人そのものだったし、僕はこの人の音楽をずっと聴いてきて、幸せだったんだなと思いました。

田家:本の最後をどう終えようか、取材のどのへんで考えるようになったんですか?

中部:何度も書き直しました。もっとリアルにやらなきゃいけないなと思ったのと、どこまで書いていいのかということもありますから。それはもう本当に悩んで、担当の編集者と話をして、そこに落ち着いていったんですね。本当にそれは悩みました。

田家:今日最後の曲は、そういう悩みの中で取材された1人だった、秋本節さんというシンガー・ソングライターの方が歌っている「僕のマリア」。この曲はどういう曲かお聞きしちゃっていいですか?

中部:これは2019年に発表された秋本節さんの2番目のアルバムで発表された曲なんですけれど、秋本さんというのは、恭蔵さんと一緒に最後にやっていた方なんですね。ギターを弾いたり、アコーディオンを弾いたり、クラリネットを吹いたり……。恭蔵さんは、秋本さんはものすごい才能があるということを日記に書いているんです。「この人の音楽的才能は驚く」っていうぐらい、恭蔵さんお気に入りで。秋本さんは師匠はいないんだけど、「誰か師匠いるかって言われたら、まあ恭蔵さんだな」っていうぐらいの関係の人なんです。それで、恭蔵さんが亡くなる前にリハーサルをしたときに、恭蔵さんがこういう歌を作ったんだって何曲か歌った歌の1曲なんですよ。秋本さんはその詞をいただいて、メロディを覚えていて、いつか必ず発表したいなと思っていて、恭蔵さんの20年後の命日に自分のアルバムを作って、発表したんですね。だから、本当に恭蔵さんの最後のラブソングです。

田家:遺作というふうに言っちゃっていいんでしょうね。

中部:いいと思います。

田家:2019年に発売になった、秋本節さんの2枚目のアルバム『KYOZO & KURO』の中の曲です。「僕のマリア」。

Rolling Stone Japan 編集部

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