アニマル・コレクティヴの歩みを総括 「21世紀最重要バンド」の過去・現在・未来

 
飛躍期(2005〜2009)
メインストリームを侵略した革新性

フォー・テットのキーラン・ヘブデンが仲介して実現したヴァシュティ・バニヤンとの共演盤『Prospect Hummer 』を挟んで、そんなかれらのフリースタイルな折衷主義が最初に大きな実を結んだのが、2005年の6作目『Feels』だった。メロディやヴォーカル・パートは力強く鮮やかな輪郭を帯び、濃淡を重ねたエフェクトやループ、トライバルなリズム、ピアノやヴァイオリンの生楽器も交えて大胆に色付けられたその祝祭的な音楽は、まるでビーチ・ボーイズと『Richard D. James Album』のあわいを縫うようにしてかれらが「ポップ」であることを明確に志向したことを告げる代物だった。リリース当時、レノックスが筆者のインタヴューで話してくれたことを思い出す。

「僕個人として、ポップと関わりをもってなきゃだめだ、という思いと、あと、このバンドを、音楽に夢中な連中だけじゃなく、誰にでも聴いてもらえるようなバンドにしたかった、っていうのがある。だからミュージシャンとして僕は、言ってみれば、山を流れるポップ・ミュージックの川をもっと大きくしたい、と思ってるんだよ」。


2004年のライブ映像、当時リリース前の『Feels』から「The Purple Bottle」を披露。




「アコースティック・ギターを、テクノを作るみたいに演奏しようとしていた」。これはアニマル・コレクティヴの結成当初を回想してポートナーが残した言葉だが、それでも『Sung Tongs』のような歌や生音の響きにフォーカスを当てたアルバムを制作し、また『Feels』では変則的なチューニングが施されたギター・ワークやシューゲイズ的なマナーがそのサウンドを特徴付けていたのに対し、続く『Strawberry Jam』(2007年)ではライブのフィーリングを求めてアブストラクトなスタイルを推し進めるとともに、エレクトロニクスへの傾倒をさらに深めていくことになる。そして、ポートナー、レノックス、ウェイツのトリオで制作された2009年の『Merriweather Post Pavilion』は、その最大の成果と呼ぶにふさわしいアルバムだろう。


2005年のライブ映像、当時リリース前の『Strawberry Jam』から「Fireworks」を披露




ビルボード・チャートの上位を記録するなど商業的な成果ももたらし、同年リリースされたグリズリー・ベア『Veckatimest』、ダーティー・プロジェクターズ『Bitte Orca』と並び「アメリカのラディカルなアンダーグラウンドのインディ・ロックがメインストリームを侵略した年」(UNCUT誌)を代表する作品と評された『Merriweather Post Pavilion』。曲作りではサンプラーやシンセサイザーをメインの楽器として使用し、ピアノやアコースティック・ギター等の生楽器もエフェクターを通じてレイヤーやピッチ加工が施され、ミキシング・プロセスですべての音を完全にコントロールできるようにほとんどすべての音が個別にレコーディングされたという『Merriweather Post Pavilion』は、例えばライブ音源がオーバーダブなしでほとんどそのまま素材として使われた『Strawberry Jam』とは大きく異なり、そのモダンな音作りのアプローチにおいてもかれらのディスコグラフィーにおいて特異点となった作品と言える。プログレッシヴで色彩鮮やかなテクスチャーの中にもオーガニックでリラックスしたムードが感じられ、アブストラクトでアンビエントな音の広がりが強調されたプロダクションは、ひたすらアッパーで喧騒に満ちた『Feels』や『Strawberry Jam』とは対照的だ。

当時のウェイツいわく「100%エレクトロニックでもなければ、100%アコースティックでもない、エレクトロニックとアコースティックの境界線に存在するような音」をイメージしたとのことだが、それはループやサンプルを多用した制作の手法的に青写真になったというパンダ・ベアのアルバム『Person Pitch』(2007年)との連続性を窺わせると同時に、直後に本格的な台頭を見せるチルウェイヴに先鞭をつけたものとして捉えることも可能かもしれない。そのことは『Merriweather Post Pavilion』で名を上げたプロデュサーのベン・H・アレン(ディアハンター、カルツ)が後にウォッシュト・アウトやネオン・インディアンを手がけるようになる経緯にも象徴的で、例えば「My Girls」や「Daily Routine」のようなカラフルなエレクトロ・ポップにおいても通奏するドローンの沈み込むような感覚、内省的なサイケデリアは、当時アメリカのアンダーグラウンドやベッドルームで“ヒプナゴジック(睡眠導入)”と表現されたムードや感覚に通じていたように思われる。


2007年のライブ映像、当時リリース前の『Merriweather〜』から「My Girls」を披露








パンダ・ベア『Person Pitch』と同時代のチルウェイヴ重要作。ウォッシュト・アウト『Life Of Leisure』、ネオン・インディアン『Psychic Chasms』(共に2009年)、トロ・イ・モア『Causers of This』(2010年)

 
 
 
 

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