アニマル・コレクティヴの歩みを総括 「21世紀最重要バンド」の過去・現在・未来

 
成熟期(2009〜2016)
サイケからヒップホップまで時空を横断


『Merriweather Post Pavilion』とは作風を一変し、ノイジーでカオッシーなエネルギーが渦巻くアルバムとなった9作目の『Centipede Hz』(2012年)。レコーディングの3カ月間、4人が同じ部屋で一日8時間ぶっ通しで演奏しまくるというやり方で作り上げたライブ・フィール溢れるサウンドで、その作業にどっぷり浸かりすぎたあまり作品の全体像を見失いかねないほど強烈な体験だったと振り返るかれらだったが、併せて『Centipede Hz』は、かれらが大好きな中東や東南アジアの音楽、いわゆるワールド・ミュージック的な西洋圏以外の音楽からの影響を顕著に聴き取ることができるのも魅力だ。

例えばリリースに合わせてウェイツが公開したプレイリストには、シルヴァー・アップルズやピンク・フロイド、13thフロア・エレベーターズに混じってブラジリアン・サイケのルラ・コルテス&ゼ・ラマルホ、トルコの女性フォーク・シンガーのセルダ、ペルーのガレージ・サイケやチチャ/ジャズ、スペインのサーフ・ロック、あるいは60年代に細野晴臣や松本隆が在籍したエイプリル・フールなど収録されていたが、他にもアフロ・ポップやトロピカリズモ、ハワイアン、グレゴリオ聖歌などグローバルな領域に広がるかれらの多文化的な音楽への興味や嗜好は、それまでにもそのディスコグラフィーの端々で披露されてきたかれらの持ち味でもある。とりわけ『Centipede Hz』では 「Today’s Supernatural」や「New Town Burnout」を始め、 そこかしこでインドネシアや東南アジア風のメロディやギター・サウンドを聴くことができ、その背景にはかれらが普段から愛聴していた〈Sublime Frequencies〉(元サン・シティ・ガールズのアラン・ビショップが運営する辺境音楽専門レーベル)のレコードの影響がある、と教えてくれたのはレノックスとディブだった。




かたや、再びディブを除くトリオで臨んだ10作目の『Painting With』(2016年)は、新曲をライブではなくレコーディング作業でのみ一から作り上げていくという、バンドにとって初めての試みで制作されたアルバム。それまではライブでの演奏を重ねることでアイデアを練り上げ、ある程度曲を形にしてからスタジオに入るというやり方をルーティンとしていたかれらだったが、『Painting With』では曲を書き上げた時の第一印象、最初のフィーリングやリアクションを最優先した結果、楽曲の構成はコンパクトになり(全12曲で収録時間はアニマル・コレクティヴ史上最短の41分)、これまた『Centipede Hz』とは対照的に、一つひとつのビートや電子音、メロディやヴォーカル・パートがクリアで、整理された音作りが際立つ仕上がりとなっている。ジョン・ケイルやコリン・ステットソンといったゲストの参加もトピックだが、例えば「Vertical」や「Bagels in Kiev」を始め『Painting With』において耳を引くのが、R&Bやヒップホップからの影響を強く窺わせるリズムやプロダクションだ。




レコーディングが行われたのがマイケル・ジャクソンやリアーナ(と『Pet Sounds』や『Smile』)を録音したハリウッドのスタジオだったのは偶然だそうだが、当時話を聞いたポートナーの見立てによれば、かれらが活動を始めた当時、2000年前後に流行っていたティンバランドやアリーヤのプロダクションにハマり強くインスパイアされたことの影響が『Painting With』には色濃く現れているのだという。あるいは、レノックスが先立って制作したパンダ・ベアの2枚のアルバム『Tomboy』(2011年)と『Panda Bear Meets The Grim Reaper』(2015年)が、主にそのリズム・ストラクチャーに関して、前者がJ・ディラの『Donuts』にインスピレーションを得たヒップホップのヘヴィなリズムや矢継ぎ早なビートを取り入れ、そして後者がジェイ・Z『Black Album』を始め近年ではドレイクやケンドリック・ラマーの作品に貢献したシカゴのDJ/プロデューサー、ナインス・ワンダーのビート・メイクやサンプリング・マナーに影響を受けた作品だったことによるフィードバックも、そこには認めることができるかもしれない。ちなみに、この時期のかれらのライブでは、同郷ボルチモアのポニーテイルのメンバーで、ボアダムスが主催する「Boredrum」にも参加したジェレミー・ハイマンがサポート・ドラマーとして参加していたことにも留意したい。



パンダ・ベアのソロ作『Tomboy』、『Panda Bear Meets The Grim Reaper』

 
 
 
 

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