アニマル・コレクティヴの歩みを総括 「21世紀最重要バンド」の過去・現在・未来

 
現在(2016〜2022)
『Time Skiffs』で発揮された4人の個性

4年前にニューオリンズで開催されたアート・イベントで、ポートナー、ウェイツ、ディブがトリオでライブ・パフォーマンスを披露するために用意した素材を起点に、改めてレノックスを加えた4人の共同作業を通じて制作が進められた『Time Skiffs』。フル・メンバーによるバンド・サウンド、加えてループやサンプルを極力控えて4人の「演奏」にフォーカスされた点は前々作『Centipede Hz』、ないし『Feels』にもアプローチ的に近いと言えそうな今作だが、一方で、パンデミックを受けて作業は全てリモートでのやり取りを通じて行われたというチャレンジングなアルバムでもある。これまで通り様々な楽器がマルチ・インスト的に使われながらも、今作ではドラム・キットに徹したレノックスを始め、ポートナーはベース・ギター、ウェイツはシンセサイザー、ディブはキーボードを基本メインに担当していて、実際にはメンバーが顔を合わせて演奏する機会は全くなかったとは信じられないほど、全編を通じてオーガニックでライブ感のあるサウンドに仕上がっているのが魅力だ。

そういえば以前、レノックスが自身のソロ作品とアニマル・コレクティヴの作品との関連性について問われて、パンダ・ベアの『Person Pitch』と『Tomboy』はアニマル・コレクティヴの『Merriweather Post Pavilion』の両隣に置かれたブックエンドのような関係――それらの間には類似点があり、影響を与え合う間柄にある――と話していたのを読んだことがある。仮にその話を今回の『Time Skiffs』にも当てはめるなら、3年前のパンダ・ベアのアルバム『Buoys』(2019年)が、前2作に続きプロダクションの部分でR&Bやヒップホップの影響を随所に窺わせた一方、アコースティック・ギターを始めシンプルな楽器の構成や歌に軸が置かれた作品だったことは象徴的と言えるかもしれない。かたや、もう一人のメイン・ソングライターであるポートナーのソロ・アルバム『Cows On Hourglass Pond』(2019年)が、『Strawberry Jam』を想起させる多彩なビートや電子音を活用しながらも、アンビエントとフォークをミックスさせたようなメロウでソングオリエンテッドな趣向を際立たせた作品だったこと。今作収録の「Prester John」は、そんなふたりが別々に書いた曲を合体させたというナンバーで、オーガスタス・パブロ直系のディープなダブとビーチ・ボーイズ風のヴォーカル・ハーモニー、華麗なオルガンのメロディが誘うまどろむようなサイケデリアがアブストラクトな電子音/ノイズの層へと大胆なグラデーションを見せるそのサウンドからは、両者が近作で披露したテイストとの関連性を聴き取ることができるかもしれない。





パンダ・ベア『Buoys』、エイヴィ・テア『Cows On Hourglass Pond』

「Walker」は、過去にレノックスが自身の作品(『Person Pitch』収録の「Take Pills」)でサンプリングしたこともあるスコット・ウォーカーに捧げたトリビュート的なナンバー。木琴や、バグパイプの音色にも似たドローンに映えるレノックスのバリトンが印象的だが、過剰に音を詰め込むことなく適度にルーズで、話を聞いたディブの言葉を借りれば「ひとりひとりが自由に息ができるスペースが確保されている」空間や余白を生かした演奏や音全体の間取りは、『Time Skiffs』を通じた傾向であり醍醐味だろう。




上述の「Take Pills」でサンプリングされた、スコット・ウォーカー「Always Coming Back To You」

そして、トロピカルなムード・ジャズといった「Car Keys」を始め、その風通しのよいサウンドを魅力的に色付けているのが、「エキゾチカ」というタームが相応しい有機的で異国情緒あふれるトーン&マナー。もっとも、前述の通りその手の文化横断的なスタイルはかれらのシグニチャーの一つだが、今作ではシーケンスやビート・グリッドを極力控えたオーガニックで自然発生的な演奏と相まって、そうしたカラーがより際立った形でそこかしこに色濃く打ち出されているように感じられる。一瞬トータスを錯覚させるようなラウンジ調の鍵盤打楽器のメロディが耳を引く「We Go Back」。ハワイアンのサンプリングを忍ばせた「Cherokee」では、ハイハットのミニマルなビートの上でポートナーの詠唱を左右にバウンスさせながら、まるでヨ・ラ・テンゴ『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』とヴァンパイア・ウィークエンドの間でたゆたうようにして「エキゾチカ」を遊ばせている。パーカッシヴなドラム・ビートと叩きつける鍵盤のリフ、陽気なヴォーカル・コーラスが賑々しくコール&レスポンスを繰り返す「Strung with Everything」は、カリブ海で録音された「The Purple Bottle」(『Feels』収録)といった趣もあって楽しい。




『Time Skiffs』がこれまでの作品と比べて魅力を増している最大の要因は、ポートナーとレノックスに加えてディブもヴォーカリストとして全面的に貢献を果たしていることだろう。過去にその3人で制作された作品として『Campfire Songs』があったが、その際はディヴの役割はあくまでバッキングに留まるものだったことを考えると、ほぼ全編通じて3人のヴォーカル・ハーモニー/コーラス・ワークを堪能できる作品は今回が初めてと言っていいかもしれない。

なかでもラストを飾る 「Royal and Desire」は、『Centipede Hz』収録の「Wide Eyed」以来、アニマル・コレクティヴの作品において2度目となるディヴがリード・ヴォーカルを担当した楽曲。ディヴといえば6年前にリリースされた初のソロ・アルバム『Sleep Cycle』は、グループ内で黒子的な序列に置かれてきたかれもまた不協和音とサイケデリアに浴したソングライター/コンポーザーであることを証明する作品だったが、ここではそのまどろむようなサウンドスケープに響き渡る魅惑的なバリトンによって、ポートナーやレノックスに勝るとも劣らないシンガーとしての自身の存在を主張している。アーサー・ラインマンが録音したダブ・プレートとでもいうか、『Merriweather Post Pavilion』に収録されていても違和感のない美しく優雅でメランコリックなムードはアニマル・コレクティヴ史上屈指であり、今作の白眉にあげたい。



「Royal and Desire」、ディーケン『Sleep Cycle』収録曲「Golden Chords」

 
 
 
 

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