アニマル・コレクティヴの歩みを総括 「21世紀最重要バンド」の過去・現在・未来

 
未来(2022〜)
「現実」とも向き合うアクチュアルな視点

「これからの未来への不安や、今直面している瞬間への困惑、悲しみや混乱、嘆きが詰め込まれている。しかし、同時に、生きる喜びがあり、愛や人生や自然や人に対する期待が表現されている」。『Time Skiffs』のプレスリリースにはそうかれらのステートメントが記されている。

例えば『Merriweather Post Pavilion』では、金融危機がもたらした不安と混乱、かたやメンバーが子供を授かり父親になったことへの喜びと期待が隣り合わせで表現されていて、当時のインタビューでかれらにとって音楽とは、ある種の現実逃避の手段、現実からの衝撃を和らげる緩衝材的な役割を果たしているとレノックスやウェイツが話していたのが印象深い。もっとも、それ以前からもかれらはバンドとして、自分たちの曲の中で政治についてあえて取り上げる意思はないこと、政治や社会的なメッセージを扱う手段として音楽を使わないことをメンバーの中で話し合って決めていると公言していたわけだが、しかし近年では、Climate Justice Alliance(気候変動対策がスムーズに進むよう、各国の政府や国際機関に政策などのアドバイスを行う活動)に賛同するキャンペーンや、LGBT差別の州法に抗議するチャリティに参加するなど、かれらのなかで「音楽」と「現実」の距離はぐっと近くなっているように感じられる。また4年前には、環境保護団体のOcean Foundationへの支援を目的としたチャリティー・ソング「Suspend The Time」をウェイツとディブが制作したことも記憶に新しい。


Photo by Hisham Bharoocha

そして今回の『Time Skiffs』ではメンバー全員が40代を迎えたかれらが過ぎ行く人生を――それこそ「時の小舟」に乗って――振り返るようなノスタルジックな観察、パーソナルなストーリーが綴られている一方、今の壊滅的な地球環境に対するリアクションとして書かれた「Prester John」を始め、アクチュアルな視点を持った曲も散見される。M&Msのチョコやトム・ハンクスが登場する「Cherokee」は、チェロキー=ジープに乗ってドライブ旅行するようなロード・ムーヴィー風の陽気なナンバーだが、しかしその旅路は途中、“自分がアメリカ人であるかどうか混乱した”というフレーズを境にして、現代と隔てられた“それ以前”の文化や歴史に馳せる思いを滲ませていく。「チェロキー」というタイトルは、同時にアメリカ先住民=チェロキー・ネーションの部族統治への言及を表すものであり、そこには、先だってかれらが『Here Comes the Indian』をデジタル・リイシューした際、「インディアン」というフレーズがネイティヴ・アメリカンに対する誤ったメッセージを送りかねないという理由からタイトルを『Ark』と改題したことの内省も読み取ることができるだろう。




『Time Skiffs』には、私たちが夢中になって聴いていたあの頃のアニマル・コレクティヴと、あの頃から変化を遂げて大きく成長した、私たちが初めて知るアニマル・コレクティヴが織り込まれている。そしてこの「時の小舟」は、かれらの未来へと私たちを橋渡ししてくれる。ディブによれば、現在(昨年末時点)、メンバー4人はスタジオに入って『Time Skiffs』に続くアルバム用の音源をレコーディングしている最中とのこと。いわく、コロナ以前の2019年の時点でアルバム2枚分をゆうに超える曲がすでにあったそうで、その中からリモートでも制作できそうな曲をレコーディングしたのが今回の『Time Skiffs』だったらしい。具体的な予定はまだ何も決まってないそうだが、とりあえず溜まっているものを吐き出そうということでみんなで集まってレコーディングしているのだそうだ。さらに、先日公開されたClashのインタヴューでレノックが明かしたところによれば、ソニック・ブームことピーター・ケンバーとレコーディングしたパンダ・ベアの新しいアルバムが今年中にリリースされる予定だという。




アニマル・コレクティヴ
『Time Skiffs』
発売中
国内盤CD:解説・歌詞対訳、ボーナストラック収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12157

『DOMINO CAMPAIGN 2022』
UKが誇る名門レーベル〈DOMINO〉のスペシャル・キャンペーンが開催決定
必聴作品のプライスオフ&応募形式で貴重なロゴトートバッグが必ず貰える!
詳細:https://www.beatink.com/user_data/domino_campaign_2022.php

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE