アニマル・コレクティヴの歩みを総括 「21世紀最重要バンド」の過去・現在・未来

アニマル・コレクティヴ、2005年撮影(Photo by Joe Dilworth/Avalon/Getty Images)

 
「21世紀の最重要バンド」として圧倒的な存在感を見せてきたアニマル・コレクティヴ(Animal Collective)。近年はその神通力も薄れていたが、最新アルバム『Time Skiffs』で見事に復活。再評価の機運も高まるなか、ライターの天井潤之介にバンドの歩みを総括してもらった。

タイム・スキフス(Time Skiffs)。直訳すると「時の小舟」を意味するアニマル・コレクティヴの最新アルバムのタイトルには、先日話を聞いたメンバーのひとり、ディーケンことジュシュ・ディブによれば「小さな舟を漕ぐように時間が徐々に流れて変化していくイメージ」が込められているという。

いわく、ある音楽と出会い夢中になって聴いていた頃の記憶。そして時間をへて蘇る当時の驚きや感動。あるいは人生経験を重ねることで得られる新たな発見や気づき――。そうしてかれらがこれまで40年以上の人生の中で出会ってきた音楽を総動員して壮大なキャンパスの上に描いてみせたのが『Time Skiffs』であり、アルバムを聴いていくうちに自分の中にいろんな風景なり感覚なりが呼び覚まされていく体験を言い表したのがあのタイトルである、と。その大きな時間軸で物ごとを捉えるオープンで柔軟な姿勢は、古今東西の音楽にアクセスして巨視的なスケールを持った音楽を作り続けてきたかれらならでは、まさに“アニマル・コレクティヴ的”と言えるのではないだろうか。



結論をいえば、『Time Skiffs』はアニマル・コレクティヴにとってこれまでの集大成と呼ぶのが相応しい作品にほかならない。『Sung Tongs』の魅惑的なヴォーカル・ハーモニー/コーラス・ワークも、『Feels』や『Strawberry Jam』の心踊るサイケデリックな音色も、『Merriweather Post Pavilion』の蕩けるようなダブやまどろむアンビエンスも、『Centipede Hz』の活気に溢れたバンド演奏も、すべてが溶け合わされてここには詰まっている。あるいは『Spirit They’re Gone, Spirit They’ve Vanished』や『Danse Manatee』の頃の野心に満ちた実験精神の反響も聴くことができるかもしれない。かれらが活動を始めておよそ20年。言うなれば『Time Skiffs』というアルバムは私たちリスナーにとって、そこに残されたかれらの足跡の数々に触れることで様々な時代のアニマル・コレクティヴと再会し、そして新たな驚きや気づきとともに出会い直すような瞬間を用意してくれる作品、なのではないだろうか。

2016年の『Painting With』に続く11枚目のスタジオ・アルバムとなる『Time Skiffs』。しかし、今作についてまず特筆すべきは、4人のメンバー全員が参加した作品としては2012年の『Centipede Hz』以来、じつに10年ぶりである点だろう。というのも、かれらは作品にかぎらずライブ・パフォーマンスも含めて都度都度で参加するメンバーの人数や顔ぶれが異なるのがもっぱらで、その時々の趣向やフィーリングにまかせてラインナップを変える流動性の高さ、フレキシビリティにかれらのユニークさの一端がある。

ちなみに、前作『Painting With』はエイヴィ・テアことデイヴ・ポートナー、パンダ・ベアことノア・レノックス、ジオロジストことブライアン・ウェイツのトリオで制作された作品。他にもこの6年の間にかれらは、ポートナーとウェイツによるEP『Meeting of the Waters 』(2017年)、ポートナーとウェイツとディブによるヴィジュアル・アルバム『Tangerine Reef 』(2018年)、ウェイツとディブによるサウンドトラック『Crestone』(2021年、コロラドの砂漠に住むSoundCloudラッパーのコミュニティを追ったドキュメンタリー映画)など、様々なメンバーの組み合わせで作品を発表している。そして、かれらはアニマル・コレクティヴと名乗る前からこれまで四半世紀、こうして音楽作りの体制や環境を絶えずリフレッシュし続けることでその創造性を担保し、サウンドを押し広げて活性化させてきたと言える。

 
 
 
 

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