ロバート・グラスパー『Black Radio III』絶対に知っておくべき5つのポイント

5. グラスパーが浮上させた「豊かなコミュニティ」

ロバート・グラスパーを中心に置くと、歌唱力や演奏力に秀でたライブ・ミュージシャンの広範なコミュニティがそこから浮かび上がってくる。グラスパーの諸作に参加しているミュージシャンは、それぞれ別のところでも繋がっていて、誰かをひとり介せばジャズとR&B、ヒップホップの最前線を跨ぐことができる。その入り組んだ関係性については、今回制作した相関図をじっくり見てもらいたい。

もちろん、もっと細かく線を引くこともできるし、ここに加わるべきミュージシャンはいくらでも思い浮かぶわけだが、これ以上複雑なレイアウトにするのは避けたかった。実際には、ここからブレインフィーダーやLAジャズの最深部、ヴルフペックやスナーキー・パピーの周辺、トラヴィス・スコットからジェイコブ・コリアーまで繋げられるし、すぐ隣にはソランジュだったり、チャンス・ザ・ラッパーを擁するゴスペル界隈もいたりする。そのコネクションにおいて、ハービー・ハンコックやスティーヴィー・ワンダー、クインシー・ジョーンズといった巨匠が今も大きな存在感を放っているのは興味深い。そして、このなかで大きなハブとなっているのがロバート・グラスパーであり、彼の周りにいるテラス・マーティンなどの仲間たちだ。



ケンドリック・ラマー、マック・ミラー、フライング・ロータスなど、グラスパーが客演した楽曲をまとめたプレイリスト

そんなことも念頭に置いたうえで、日本でも話題になった2022年のNFLスーパーボウル・ハーフタイムショーを振り返ってみよう(動画はこちら)。

まず、ドクター・ドレーとスヌープ・ドッグは、テラス・マーティンの才能をいち早く見抜いて重用してきた。スヌープは『Black Radio 2』に参加しているほか、若き日のテラスやカマシ・ワシントンも一員だったジャズ集団「ウェスト・コースト・ゲット・ダウン」をライブ・バンドに起用している(『Black Radio III』にはスヌープの音楽監督を務めたLAの伝説的ギタリスト、マーロン・ウィリアムスも参加)。ケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』でグラスパーやカマシを誘ったのはテラスだったが、彼がプロデューサーとして台頭するまでには長い下積み時代があったわけだ。また、メアリー・J・ブライジは上述の『Nina Revisited...』でグラスパーにプロデュースされているし、過去にはキーヨン・ハロルドなどのジャズ奏者を起用している。

エミネムの出番でアンダーソン・パークがドラムを叩いたのも話題となったが(彼の作品にはグラスパーやクリス・デイヴも参加)、あのとき脇を固めていた演奏陣にも注目しておきたい。トロンボーン奏者のライアン・ポーターは、カマシのバンドに不可欠な存在。敏腕トランぺッターのドンタエ・ウィンスロウは、RHファクターからジル・スコット、ミュージック・ソウルチャイルドからPJモートン、カマシまで起用されてきた。ベースのアダム・ブラックストーンはフィリーの重鎮で、当地のネオソウル作品に大きく貢献している(同郷のデリック・ホッジは、影響を受けたベーシストとしてアダムの名を挙げている)。あのLAヒップホップ史を総括するような歴史的ステージも、ここまで語ってきたコミュニティと直結しているのがよくわかる。

ちなみに、当日のオープニング・セレモニーでは、ゴスペル・デュオのメアリー・メアリーが「ブラック・ナショナル・アンセム」とも呼ばれている「Lift Every Voice and Sing」を歌っていた(動画はこちら)。2018年の「ビーチェラ」でも注目されたこの曲をオープニングに持ってきたのは、アフリカン・アメリカンの文化にフォーカスするうえで大きな意味があったと思う。ここでオーケストラのアレンジを担当していたのはデリック・ホッジだった。 

「ロバート・グラスパーと『Black Radio』の最大の功績は何か?」と問われたら、僕はこれだけ豊かなシーンを浮上させ、その営みを世界に知らしめたこと、と答えるだろう。この10年でコミュニティは一気に拡張されているし、この先もさらに広がっていくはずだ。将来的には北米やヨーロッパだけではなく、南米やアフリカ、もちろん日本やアジアとも繋がっていくことだろう。『Black Radio III』には、そんなコミュニティの新たな到達点が刻まれている。




ロバート・グラスパー
『BLACK RADIO III』
2022年2月25日世界同時リリース
日本盤SHM-CD  税込価格:¥2,860
視聴・購入:https://Robert-Glasper.lnk.to/BlackRadio3PR

『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022』
日程:2022年5月14日(土)、5月15日(日)11:00 開場 / 12:00 開演(予定)
会場:埼玉県・秩父ミューズパーク
※ロバート・グラスパーは5月15日に出演
詳細:https://lovesupremefestival.jp

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