ササミが語る韓国のルーツ、日本での家族史、優しさに満ちたヘヴィメタル

 
母方は在日コリアン、家族史から学んだこと

『Squeeze』の統一感あるバリエーションは、作曲家および作詞家としてのササミの才能の証だ。曲を書きはじめたのは20代後半になってからだが、彼女は勤勉に作曲に取り組んだ。熱心なビートルズ・ファンである彼女は、『ザ・ビートルズ:Get Back』から得た教訓について次のように語る。「ほかのみんなと同じように、彼らは時間を決めて、時間を記録しながら仕事に取り組んだ。真面目で勤勉な韓国人の女の子として、私は彼らのやり方を尊重した。アートをつくることはとてもロマンチックで気まぐれな仕事だけど、コミットメントは必要なの」

作詞に関して言えば、ササミは楽曲を聴き込み、解読し、練習したうえで、腰を据えて作詞に取り掛かったわけではない。彼女の表現を借りるなら、「歌が表に出たがっていると感じる」まで待ったのだ。ササミはジャンルを言語になぞらえ、聴くことと演奏することを繰り返しながら——それは、自信をもって新しい言語で色んなフレーズを使いこなせるようになることに似ている——流暢さを構築していくことについて語った。

「たくさんの音楽を聴いたし、色んな人のバンドで演奏してきた」とササミは言う。「誰かのバンドでは肝臓のような役割を果たしてきた。私は臓器で、さまざまな部位を経験したことで『OK、これでもう一人前の体として機能できる』という地点にたどり着いたの」



『Squeeze』の制作に励む傍ら、ササミは自身の家族史を掘り下げるというもうひとつのプロジェクトにも取り組んでいた。パンデミックが襲来する直前、母方の祖母が韓国に帰国した。彼女は、祖母の年齢とふたりの間の地理的距離が広がることを踏まえて、祖母にできるだけ多くのことを教えてもらいたいと考えた。その前に優等生のササミは、ほぼ万全の状態で祖母との会話に臨むため、祖母と家族が経験した文化的な歴史を学ぶという「高潔な正義」を果たさなければならなかった。

ササミの母方の家族は在日コリアンだ。日本に定住している彼らは、日本では周縁化され、差別的な扱いを受けることが多い。ササミの祖母は日本で生まれ、人生の大半を東京で過ごした。ササミの母は、韓国人であることを理由に幼い頃いじめに遭ったことを断片的に彼女に話しているが、「あなたにはわからない」や「あなたにこのことを全部話したくない」と言って積極的に語ろうとはしなかった。

ササミは、韓国語と日本語に磨きをかけて、200年にわたる長く複雑な歴史の世界に身を投じた。妖怪、タランティーノ監督の『キル・ビル』の着想源となった復讐劇『修羅雪姫』(1973年)、名作ホラー映画『HOUSE ハウス』(1977年)などにのめり込むようになったのは、ちょうどこの頃だ。これらすべては、ビジュアル的にもテーマ的にも『Squeeze』の楽曲へと繋がっていった。

ミン・ジン・リーの有名な小説『パチンコ』(2017年)も読んだ。同作は、在日コリアンの一家を描いた壮大な物語で、ササミは自身の家族の物語との共通点にハッとした。同作の登場人物のひとりと同様に、彼女の祖父はパチンコ店を経営していた。日本のギャンブル産業を支えるパチンコは、ほかの職業から締め出された在日コリアンが優位を占める業界だった。パチンコのおかげで祖父は、極度の貧困の中で家族を養うことができたのだ。

「家族は、いつもパチンコ台のことを話していたけど、この本を読むまでそれが何かわからなかった」とササミは言う。「家族という、DNAで繋がっているかどうかもわからない行き当たりばったりの人々は、ストーリーテリングにおいてとても興味深い要素なの。雪の結晶のようにふたつとして同じ家族は存在しないから、家族史を紐解くことで何らかの空想の世界がひらめくのは自然なこと」


Photo by Daniel Topete for Rolling Stone

祖母と直接会って話をするという計画はまだ実現していないものの、母との会話によってさまざまなことがわかるようになったと彼女は言う。これまでの学習が功を奏したのだ。その結果、両親が統一教会に入信し、そのもとで彼女を育てた理由も少しずつわかってきた。韓国の宗教団体である統一教会は(創始者・文鮮明の名前をとり、アメリカで信者は「ムーニー」と呼ばれている)一部の人からはカルト教団と呼ばれている。

ササミは、統一教会を「韓国の至上主義的な教会」と表現し、母国・日本に対する帰属意識とはほぼ無縁だった母親のような在日女性にとって——とりわけ、新しいスタートを求めて20代でアメリカに移住した彼女にとって——自分を温かく迎え入れてくれるコミュニティとの出会いは、天啓のようなものだったと考える。

ロサンゼルス郊外のエル・セグンドという白人主流の地域で幼少期を過ごしたササミにとって、韓国文化の中で過ごした子供時代は、統一教会と切っても切れないものだった。毎週日曜日には韓国人向けの学校に通い、祈りの儀式を学んだ。その一方、彼女が通っていたアメリカ支部はかなりアメリカナイズないし白人化されていた。それがもっとも顕著にあらわれていたのが音楽だった。

「(教会には)大勢の白人ヒッピーがいて、音楽の大半はアコースティックギターに合わせて歌うフォークソングだった」と、彼女は声を出して笑いながら振り返る。みんなで(ビートルズの)『Eight Days a Week』を歌うんだけど、“おお神よ、あなたの愛が必要です”って歌詞を変えるの。ひどくない? でも、韓国のメロディーにのせて美しいフォークソングを歌うこともあった。韓国の古いフォークソングも歌った」

統一教会時代、家族史、ある時は交差し、ある時はすれ違う縦糸と横糸——ササミの道のりはまだまだ長い。でも彼女は、明確な答えを求めていないようだ。探求によって強くなった彼女は、『Squeeze』の中で多数の選択肢を受け入れている。それは音楽、新たに芽生えたヘヴィメタル愛と正統派ロックやポップの戯れ、アルバムのカバーアートにあらわれている。カバーに掲げられた韓国語のタイトルは、ササミの母が筆で書いたものだ。

「すべての経験は、アートを生み出すためのエモーショナルな語彙を与えてくれるし、幼少期のカウンターカルチャー的な経験は、自分自身の人生と世界の見方に影響を与える」と彼女は言う。「これはこの団体、これは家族の遺産、これはあなた自身のメンタルヘルスの問題、これは環境という感じにすべての原因を解明するのは難しい。アートをつくることの大部分は、必ずしもエモーショナルな経験の源泉を問うことではなく、糸をたぐり寄せながら、そこにたどり着くことなの」

From Rolling Stone US.




ササミ
『Squeeze』
発売中
日本盤ボーナストラック:システム・オブ・ア・ダウンのカバー「Toxicity」ライブ・バージョン追加収録
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Translated by Shoko Natori

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