コロナ後遺症に苦しむ人々 米国社会の実態

コロナ前のテイラーさんの生活

コロナ以前、テイラーさんの生活はこうではなかった。事実、2020年3月の第1週に生活は上向きになりかけていた。日雇い労働者としてヒューストンの建築現場や造園業で地道に働き、長期滞在用のモーテルで暮らしながら、アパートを借りるお金を貯めていた。「あと1回分の給料でアパートを借りれる、というところまできて感染しました」とテイラーさん。最初にコロナの症状(のどの痛み、発熱、乾いた咳)が出始めたのは3月7日だったそうだ。

数週間が経っても身体はボロボロだったが、初めのうちは回復が長引いていることを気にしていなかった。どのみち2009年に豚インフルエンザに罹った時も、全快までに数カ月かかっていた。「今回も同じような感じだろうと思っていました」と本人。「あの時のパンデミックとよく比較されていましたからね」。だが2年が経った今も、テイラーさんの具合は芳しくない。

「ある日、コロナ後遺症でよく見られる症状のリストを見ました。200以上もの症状が挙がっていて――その大半が当てはまりました」。コロナ後遺症を抱える大勢の人々と同じように、彼女の症状も一様ではなく断続的で、数日ごと、あるいは数週間ごとに症状の組み合わせや重症度が変化するそうだ。

彼女の場合、倦怠感や発疹、神経認知障害がとくに頻繁に現れる厄介な症状だが、日々の生活を困難にしているのは突然発症した重度の関節炎だ。「とくに手に支障が出ているので、靴紐を結ぶとかボタンをかけるといった簡単な作業も今までとは違うやり方をしなくてはなりませんでした」と彼女は説明する。「(コロナの感染)以来、1~2日以上続けて働くことができなくなりました」

収入源を失ったため、テイラーさんはモーテルを出て、地元のドーナツ店のごみ箱の裏でテント生活を余儀なくされた。本人の推定では、2020年の春から夏にかけて段ボールから友人宅のソファ、モーテルの部屋など、少なくとも20カ所以上をあちこち移り住んだという。

2020年秋になるころには頻繁に移動することが耐えられなくなり、テイラーさんは長期間の野宿を始めた。「この時点で、神経学的症状が一気に悪化しました。今になって思えば、無意識のうちに死に場所をこしらえていたんだと思います」

テイラーさんはこの1年アストロドーム付近の袋小路で、枝を広げる樫の木の下に仮設小屋を建てて生活している。「最近ではほとんど世捨て人です」と彼女は言う。「コロナで免疫システムをやられてしまったので、ほとんど一人きりです。できるだけ小屋から出ないようにしています」

だがテイラーさん以外にも、コロナ感染から慢性疾患を発症し、生活に支障をきたしている人は大勢いる。まずは健康がむしばまれ、次に経済的安定が脅かされる。中にはコロナ後遺症の生活でいくつもの重荷を抱え、住む場所を失った人もいる。少なくとも1人は、コロナ後遺症から立て続けに災難に見舞われ、命を落とした。

「コロナ後遺症が財政の健全性――住居の確保や住居を失うことなど――に及ぼす影響について(の理解)は、表面をかすっているにすぎません」と言うのは、ブラウン大学の戦略イノベーション学の准教授、メーガン・ラニー博士だ。公衆衛生大学院のコロナ後遺症対策の共同リーダーでもある。「残念ながら、アメリカの大半ではセーフティネットが非常に限られているために、コロナ後遺症の生活で人々は経済的に追い詰められています」

コロナ後遺症についてわかっていることのひとつに、症状の種類や重症度が多岐にわたる点がある。コロナ後遺症の患者の中には問題なく仕事を続けられる人もいるが、一部の人々――とりわけ体力を必要とするギグ・エコノミーで働く人々――には、そうした選択肢はない。

「我が国では、慢性疾患を抱えながらも働き続け、家族を養うことができるような支援が行き届いていません」とラニー博士。「明らかにドミノ作用が起きています。働けなくなって、いつか家を失うことになります」

Translated by Akiko Kato

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE