コロナ後遺症に苦しむ人々 米国社会の実態

「職場復帰」への不安

パンデミック以前、ネイサン・バースさんはシアトルで幼稚園の先生をしていた。だが2020年3月と11月にコロナに感染し、コロナ後遺症――衰弱疲労、耳の痛みや圧迫感、頻発する耳鳴り――にかかり、教職に戻る体力がなくなった。シアトルでは家賃が支払えなくなり、バースさんはアイダホ州の実家に戻って友人たちや親族の家をあちこち転々としていたが、ついに引導を渡されてしまった。「3月1日までに住む場所を探さなくてはならないんです」と45歳のバースさんはローリングストーン誌に語った。「またもやホームレス寸前です」

せめてアルバイトでもいいから仕事が欲しいとバースさんも一生懸命だが、体力がなく、コロナ後遺症の症状が頻発するため、仕事を続けるのは難しいのではないか、もしかすると無理なのではないかと懸念している。「それがものすごく心配です」と本人。「僕が恐れている最悪の事態は、頑張って職探しをして、仕事が好きになり始めた途端に、またコロナに感染したり症状がぶり返したりして仕事を1~2週間休むことになり、本当にやりたかった仕事を解雇されることです」

コロナ後遺症を抱える他の人々も、バースさんのように職場復帰を懸念している。1日中オフィスで仕事をやり遂げる体力があるだろうかと疑問を抱き、上司の期待にこたえられるだろうかと気をもんでいる。しかも困ったことに、全米障害者法(ADA)を通じて正当な配慮を求めたところで、雇用主がどう対応するかも定かではない。

ADAはコロナ後遺症を障害認定しているものの、法の適用や保護対策は雇い主がケースバイケースで決定する。「ここでは雇用主の方に選択の余地が与えられています。慣例的に雇用主は独自の裁量で、どの仕事が重要かを判断することができます」。セントルイス大学法学部の教授で、障がい者雇用法を専門とするエリザベス・ベンドー博士は昨年10月にローリングストーン誌にこう語った。

その他慢性疾患(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、線維筋痛症、慢性ライム病など)の患者が職場での配慮を求める際に直面する問題の例にならえば、コロナ後遺症患者にも険しい道が待っている。「この国の障害制度はゆっくり、少しずつ崩壊しています」と、エミリー・テイラー氏も言う。#SolveMe(ME/CFSや長期慢性疾患に特化した研究活動団体)の支援&コミュニティ活動の副部長で、Long Covid Allianceのシニアスタッフでもある。「ME/CFSの活動家としてコロナ後遺症の皆さんに謝罪します。もし私たちがもっと成果を上げていたら、今頃こんな状態ではなかったでしょう」

融通の利かない雇用主を抜きにしても、根本的な問題がある。コロナ後遺症や慢性疾患の患者には、自分たちに特化して策定されたわけではない制度に合わせるしかないのだ。「既存の障害制度の中には有益なものもありますが、そもそも丸い穴に角柱を通そうというようなものです」と彼女は説明する。「ME/CFSやコロナ後遺症、その他目に見えない病気を抱える人々を、見た目にわかりやすい障害を持つ人たち向けに作られた穴に無理やり押し込めようとしているのです」

アメリカ人の56%がその日暮らしで、47%がちゃんとした貯蓄プランを持っていないと言われる中、個人や社会のセーフティネットがない状態で収入を失えば、経済的に悲惨な状態にもなりうる。こうした問題は、とくにギグ・エコノミーの労働者の間で見られる。

アメリカでこうした単発の仕事やフリーランス業で生計を立てている人がどのぐらいいるのか、具体的な数字は定かではないものの、コンサルタント会社MBO Partnersが2021年12月に発表した報告書によれば、個人事業主の総数は2020年の3820万人から2021年には5110万人と、パンデミック1年目で34%も増加した。

Translated by Akiko Kato

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