コロナ後遺症に苦しむ人々 米国社会の実態

まとな診察を受けられない「現実」

ミシシッピー州ジャクソンのビラル・キジルバッシュさんはこの8年、自ら運営するNPO団体「Draw a Smile Foundation」を通じて、困っている地元住民に暖かい食事を無料で提供している。主に住所不定の人々と働くキジルバッシュさんは、パンデミックでコロナ後遺症患者がが受ける被害を目の当たりにしてきた。住所不定の人々の大半は、たいてい医療保険に加入できない。それに加え、最初のコロナ感染を証明する書類も持っていない。

「これがちょっと厄介なところなんです」と言うキジルバッシュさん本人も、コロナ後遺症に悩まされている。「ホームレスの人々はみなコロナ後遺症の症状を抱えていますが、保険も感染証明書も持っていないので、誰からも取り合ってもらえません。検査を受けに行ったけれど、費用を払えないからと追い払われたという話も聞きます」

折に触れて、コロナ後遺症や他の疾患を抱えたホームレスの人々が毎週金曜日の炊き出しに姿を見せなくなる。そうなればキジルバシュさんの目にも留まるだろう。最悪の事態を想定するのはそう難しいことではない。「彼らは基本的に透明人間なんです」と、彼はローリングストーン誌に語った。「お金もない、追跡する記録もない、ただ姿を消してしまう。州を出るか、あるいは路上でのたれ死んで遺体が発見されるまで、誰にも気づいてもらえないでしょう」

そうした透明人間の感覚は、コロナ後遺症を患って住む場所を失ったテイラーさんも身をもって体験した。「コロナ後遺症の治療は存在しないにも等しいですし、症状はしばしば精神疾患で片付けられます」と彼女は説明する。「ホームレスへの治療もないに等しいですし、ホームレス状態自体も精神疾患で片付けられるのがオチです」

住所不定の人々が医者に診てもらえたとしても、適切な手当や治療の代わりに、無遠慮でお節介な説教をされる、とテイラーさんは言う。「もっと頑張りなさいと言われたり、庇護者ぶって“諭され”たり、精神疾患サービスに照会されたり、生活を変える役に立たないアドバイスをもらったり――私たちがこうなったのは生活に問題があるからじゃなく、こうするしかなかっただけなのに」と彼女は言う。「それでもダメな場合はどうなるか? 自ら選んでこういう生活をしているんだ、とあしらわれてしまうんです」


ミズーリ州ジャクソンの繁華街で、金曜夜のイベント「R U Hungry?」で飲み物を配るビラル・キジルバッシュさん 彼が運営するNPO団体「Draw a Smile Foundation」は毎週金曜にホームレスに炊き出しを行っている。(Photo by Draw-a-Smile Foundation)

ブライアントさんもテキサス州で治療を受けようとしたが、無駄骨だった。彼の症状は2021年もどんどん悪くなる一方だったが、サヴェージさんの話では、医者はまともに取り合ってくれなかったという――自分がコロナ後遺症だと言ったときはなおさらだった。「医者に診てもらうたびに、理由を説明しなくちゃいけませんでした」と彼女は振り返る。「ものすごくイライラしました。どうしてカルテを見て、この1年彼が悩まされてきた症状を確認しないんだろう?って。やってきたのが40歳男性だったので、また(オピオイドの)過剰摂取だと思われたんでしょうね」

ブライアントさんが重度の肺炎で運び込まれたとき――一酸化炭素中毒で運び込まれたこともあった――病院側は彼を一晩入院させ、翌日には退院させるのが常だった。「保険に入っていなかったので、大事にされなかったんです」とサヴェージさんは言う。「もっとましな治療をしてくれてもよかったのに。チャンスは毎回あったはずです。まだ生まれていない胎児以外、テキサスの医者は構ってくれないんです」

ようやくメディケイドが選択肢としてあがってきたものの、テキサス州ではメディケイドの給付対象となるにはまず障害者手当の条件を満たさなくてはならない。申請プロセスには数カ月かかることをサヴェージさんも心得ていた。「いつも思うんです、もし引っ越していたらジェイクはまだ生きていただろうか? もっといい治療をさせてあげられただろうか?って」と彼女は言う。「少なくともウェストバージニア州では、貧しい人はたくさんいますが、治療はしてもらえます。でもテキサス州では貧乏にもなれない。テキサスの貧乏者は価値がないです」

サヴェージさんにとって、ブライアントさんの最期の数カ月は記憶が曖昧だ。病院の内でも外でも看病し、相手にしてくれない医者の対処に追われ、ありったけの金を集めて一度に数日分の薬を買った――手に入るものなら何でも集めた。両側肺炎の発作が立て続けに起こった後、「彼の肺には水がいっぱいで、心臓に負担がかかり始めていました。それで心不全を起こしたんです」と説明してくれた。

2021年9月4日、ブライアントさんは夜明け前にこの世を去った。その日遅く、サヴェージさんはブライアントさんの障害者手当申請が承認されたという電話を受け取った。

Translated by Akiko Kato

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