イントロの長さに隠れた意図、トーキング・ヘッズの楽曲などから鳥居真道が徹底考察

 
ヒット曲のイントロが短くなっているというトレンドには、制作側のスキップされることを避けたいという意図が反映されているのかもしれません。ただしこれが唯一の理由とも思えません。昨今のポップスは1小節ないし2小節単位のループによってトラックの土台が構成されていることもその要因のひとつではないかと考えています。頭からお尻まで同一のループで構成されているのであれば、時間をかけて何度も繰り返す必要がなさそうです。
 
ヒット曲のイントロが短くなっている。それはスキップ回避のためである。そう言われると思わずなるほどねと納得してしまうところですが、そうであるのなら必ずしも早い内に歌に入ったほうが有利とは言えないような気もします。スキップ回避が問題であるのなら、イントロを切り詰めるのではなく、むしろめちゃくちゃキャッチーなイントロが量産されるというような状況になっていても良いように思います。制作側が互いに切磋琢磨して、創意を凝らしたイントロを供給した結果、イントロ黄金期が到来していてもおかしくないのではと思います。ここで大滝詠一がかつて「ヒット曲を作るのは制作者ではなくあくまでリスナーである」というような含蓄のあることを言っていたのを思い出しました。制作者は意図してキャッチーなイントロを作ることができません。それはリスナーの反応から遡及的に定義されるものだからです。
 
私の関心は、イントロが短くなっていることよりも、長いイントロはどうして長いのかということに向かっています。長いイントロといって最初に思い浮かぶのはトーキング・ヘッズの「Crosseyed and Painless」です。『Remain in Light』に収録されたスタジオ版ではなく、映画『Stop Making The Sense』のライブ版のほうです。『Stop Making The Sense』のDVDに収録されたコメンタリーによれば、フェラ・クティに影響を受けて作られた曲とのことですが、リズムは2拍目4拍目を強調するバックビートで、あまりトニー・アレン的なアフロビートではありません。各楽器のレイヤーの重ね方がフェラ的といえばフェラ的です。マイケル・ジャクソンの「Don’t Stop ’Til You Get Enough」に見られるリフの掛け合いに近いように思います。

 

スタジオ版の「Crosseyed And Painless」は、
13秒程度のささやかなイントロから始まりますが、映画版のほうはP-FUNK調のスローなジャムが冒頭に付け足されています。心地よいテンポでジャムが進むなか、デヴィッド・バーンがコーラスのメロディをモチーフにしたギター・ソロを弾いています。この良い感じのジャムが0:54まで続き、「バッバッ!」というキメとともにテンポがあがり、原曲よりも少しばかり早いテンポへと移行します。この瞬間にたまらなく興奮します。まさにスターを取って無敵になったマリオのような気分です。
 
ゆったりとしたジャムのほうはBPMが107前後です。テンポアップしてからのBPMは145前後。およそ1.35倍という中途半端なテンポアップです。どこから新しいテンポを調達してきたのか不明です。2拍3連から新しいテンポを設定したとしたらBPM160となるはずなので、これは違うようです。そこに何かロジックがあるわけではなさそうです。おそらく気合と根性で合わせているのでしょう。ちなみに映画だとテンポアップする前にデヴィッド・バーンがドラマーのクリス・フランツにちらりと目配せしていますが、ステージ上でバーンは常に挙動不審な動きをしているので、なんだか見落としてしまいそうだなと思いました。
 
テンポアップでテンションをバク上げするためには、ゆったりとしたジャムにある程度時間をかけなければなりません。長ければ長いほうが良いです。このライブ音源だと1分弱で終わってしまいますが、個人的には5分ぐらいあっても良いと思っています。10分ぐらいあっても良い。このジャムセッションパートには単に前フリ以上の価値があるからです。その価値とは端的にいって心地の良いグルーヴにほかなりません。バーニー・ウォーレルを始めとするゲスト・ミュージシャンたちの貢献もありますが、ここではやはりティナ・ウェイマスとクリス・フランツという非常にすぐれたリズム隊の功績を改めて讃えたいと思います。

Rolling Stone Japan 編集部

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