ミッキー吉野70歳記念アルバムをプロデューサー・亀田誠治と語る



亀田:最初に僕がミッキーさんからオファーをいただいたとき、デモですぐに送って下さった曲です。「DEAD END」つまり、袋小路を突き破ってくパワーのある音楽を若い人たちと一緒に作りたいという意味が込められていました。

田家:そういうふうにミッキーさんがおっしゃっていたんですか?

亀田:はい!なので、亀田誠治プロデュースという衣はまとっていますが、基本的にはミッキー吉野さんの熱い想い、それに僕が突き動かされているんです。

田家:ミッキーさんの想いを形にしたアルバムでもあると。人選は亀田さんが?

亀田:はい、そうです。STUTSくんと一緒になる現場がありまして、アーティスト個人として、プロデューサーとして、トラックメイカーとしての力もすごい。星野源さんのライブで観たのかな、生MPC打ちが素晴らしくて、これはおもしろい世代の人が出てきたと思ったんです。ビートの跳ねる感じをエレクトロを使いながら出せるのはSTUTSくんだと思って。ラッパーのcampanellaさんは、STUTSくんが紹介してくれました。楽曲のメッセージをしっかり届けられて、ミッキーさんの音楽に対して愛のある人に参加してほしいというお話をしたら、名古屋在住のcampanellaというラッパーがいるから、彼だったらきっと素敵なリリックを書いてくれて、独特のグルーヴでこの曲をさらにもうワンステップ上に持っていってくれるんじゃないかって。STUTSくんもプロデューサーらしい感覚で臨んでくれました。

田家:STUTSさんはゴダイゴ、ミッキー吉野という名前は知っていたんですか?

亀田:リアルタイムではないんですけど、大好きだとおっしゃっていましたね。僕が感じたように日本の音楽の中にグルーヴを持ち込んだ人。それまではどこか歌謡曲寄り、演歌寄り、もしくはジャズ寄りみたいなイメージで。あとはロックと言うと、やたら英語でまくしたてるようなイメージがあって。松本隆さんのトリビュートのときにお話したような記憶があるんですけど、日本の音楽界になかったエッセンスを取り入れた存在だということをSTUTSくんのDJ的感覚の中からキャッチしていたみたいです。

田家:STUTSさんのことをいろいろ探していて、You Tubeにあった映像がニューヨークのハーレム125丁目でMPC1000を使ったストリートパフォーマンスがあって、あれはよかったですねー。

亀田:かっこいいんですよ。自分のことをビートメイカーって言っていて、MPCプレイヤーっていう言い方がいいって言っていました。それぐらい自分の手でマシンからビートを鳴らすことにこだわりを持っている。

田家:はー! トラックメイカーではなくて、ビートメイカー。すごいですねというこんな感想しか言えない自分が情けないんですが(笑)。

亀田:1977年に「DEAD END」が出てきたときと、それに勝る力をはめたいなと思ったんです。それにはSTUTSくんは最適な人選だと思いました。この曲もスーパーコロナ禍のレコーディングなのでデータ交換だけで作り上げているんです。我々は一度もスタジオに集まっていない。リモートのミーティングで意見交換して、それぞれが想いのたけを込めて、ミッキーさんがまずキーボードデータをSTUTSくんに送って、STUTSくんがそれにビートをつけていって、つけたビートに対してミッキーさんがまた触発されて、違うフレーズを入れる。オケがだんだん完成に近づいてきたら、campanellaくんが名古屋の自分のスタジオでラップを入れてくれて、何回かやり取りをしたり、僕も自分のスタジオでベースを弾いて作っていきました。

田家:ゴダイゴの中にはプログレっぽい、フュージョンっぽい要素があったりしましたけど、そういう要素は排除していますもんね。

亀田:これはミッキーさんがはじめに一言、メッセージをちゃんと伝えるために、この曲にはぜひともラップを入れたいとおっしゃってくださって。

田家:コーラスはやめたんですね。

亀田:原曲の象徴的なコーラスは入っていなくて、「DEAD END」、袋小路を突き破っていくようなメッセージがほしいということでした。僕からSTUTSくんになるべく誤差のないように翻訳して、ミッキーさんはこういう気持ちなんだけれど、それを表現してくれるラッパーいないかなって伝えたら、campanellaさんを推薦してくれました。

田家:ミッキーさんの演奏を聴いているだけで、ラップに触発されているなというのは感じますもんね。

亀田:ラップを聴いて、また演奏を変えているんです。なのでリモートレコーディングと言うと、一方通行のような感覚があるかもしれないんですけど、ちゃんと双方向になっている。何回か往復書簡されて完成に近づける作り方をやってきました。ちなみにこの「DEAD END」はトラックダウン、ミックスもSTUTSくんが手がけているんです。自分のビートやcampanellaのラップを僕は知り尽くしているから、音楽を作る上で、思い描いているサウンドの誤差が生まれないように、って。これもとてもクリエイティブで、ある意味親子ぐらい離れている世代のSTUTSくんが僕らに、そして孫くらい離れているミッキーさんに対しても自由な音楽の意見を言い合える関係がこのレコーディングの中には終始ありました。

田家:ゴダイゴがストリートミュージックとして蘇生した感じがありました。

Rolling Stone Japan 編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE