ラウ・アレハンドロ、レゲトンの未来を拓くゲームチェンジャーの飢餓感

 
不正義

9月、ラウはジャマイカのアーティスト、ロシアンのシングルで、ブラウンをフィーチャリングした「Nostálgico」に飛び乗った。批判もあったが、業界関係者から共演を祝福する手紙が届いたとラウは言う。そこには2009年にリアーナへの暴行が大々的に報道されて以来、何度も暴行で訴えられているブラウンに対する音楽業界の曖昧な態度が見え隠れしている。この数年で、レゲトンでもこうしたトピックが増えている。アヌエルAAのようなラッパーはテカシ・シックスナインとのコラボレーションで批判を浴び、最近ではファルコがR・ケリーのサンプルを使用したことで非難された。「本当にデリケートな問題です」。このことについて尋ねるとラウは慎重にそう答えた。「私は女性と共に育ちました。女性はインスピレーションの源です。女性をリスペクトしています。女性に敵対するものはすべてノーです。同時に、母からは、人を許すこと、気遣うこと、話を聞こうとすること、恨みをもって生きないことを教わりました。辛い感情を持って生きるのはよくありません、毒みたいなものです。誰も庇うつもりはありません。弁護士ではありませんから。でも、人を裁くこともしません」。

ラウの音楽は意図して非政治的である。彼はプエルトリコで経験した不正義について個人的な感情を抱いており、あるとき私にこう言った。「プエルトリコは問題だらけです。その筆頭が政府です。クソみたいな政府です」。しかしながら彼はプエルトリコの制度や政治についての質問には深入りしない。「政治についてはよく知らないんです」と彼は言う。「無知といっていいくらいかもしれません。もともと向いてないんです」。

バッド・バニーやレジデンテが音楽で政府に対する痛烈な批判を行う一方で、ラウは自分は「そういうタイプのアーティストではない」と言う。とはいえ、実際には決めかねており、揺れ動いているようにも見える。「神さまは違うことをさせるために違う仕事をそれぞれの人に与えたのだと思います」と語る一方で、島のために戦うアーティストたちの運動は支持するという。「島と人びとを代表することを求められれば、そのときはやります」。故郷は今でも最大のインスピレーションであり、プエルトリコのために音楽をつくることが自分の仕事なのだと彼は言う。




ロザリア

私生活もまた音楽に影響を与える。ファンは特にロザリアとの関係をどのように音楽に織り込んでいるかを知りたがる。「ドラマチックな恋愛沙汰が好きな人がいますが、そういうのとは違います」とラウは言う。「ポップスターの中にはテレノベラ(編注:スペイン語で「テレビ小説」=メロドラマの意味)みたいなことになる人たちもいますが、そういうのは大嫌いです。本当に嫌いなんです。わたしたちは本気のリアルな関係です。もうだいぶ付き合っていますし」。

「だいぶ」というのがどれくらいの期間なのかを彼は明かさない。ファンたちはふたりが最初に出会ったのは2019年のラテン・グラミー賞だと推測しているが当初人目を忍んでいたので確かなところはわからない。いつ出会ったのかと尋ねると、彼は「えっと、あれは2000....」と言い始めて、すぐにとどまった。「言えないな」と笑いながら言う。眺めの良いウェストハリウッドの高級レストランで手をつないでいるところをパパラッチされ、ようやくふたりは交際を公にした。「何人ものパパラッチを見て『なあ、どうしよう?』と聞いたら、彼女は『ぶっちゃけ、こういうのもううんざり』って言ったんです。それで『もういいや、いまだ』と思ったんです。それでレストランから手をつないで降りていきました。何て言えばいいですか? はい、付き合ってました」。

交際はラウの音楽に密やかにして明確な影響を及ぼした。昨年の冬のローリングストーン誌の取材でロザリアに言及した際、彼は交際していることは伏せながら『Afrodisíaco』の1曲目「Dile a El」で制作を手伝ったとだけ話した。ラウは、その時点で付き合っていたことをきまり悪そうに認める。ロザリアは、アルバムの2曲目「Strawberry Kiwi」にも協力している。「『トップ・ラインが欲しい、ちょっと行き詰まった』と言ったら、彼女は一緒になってクレイジーなトップ・ラインをやってくれた」とラウは回想する。ラウは、彼女のプロジェクトにアイデアを提供することもあるという。「お互いにリスペクトし合っています。それが一番大事なことです」と彼は言う。「一緒に音楽をやることにはこだわっていません。もしそうなったら、もちろんやります。計画もしていますが、すぐにではありません」(彼はロザリアの待望のニューアルバム『MOTOMAMI』に賛辞を送る。「すごい、本当にすごいです。アルバム全曲を聴いたとき、溜め息がでました。彼女は史上最高です。革新的です。新しいサウンドをつくっています」)。

昨年秋にスペインで開催されたLOS40 Music Awardsで受賞した際、ラウは舞台上で彼女にキスをし、彼女を自分の「ミューズ」と呼んだ。しかし、彼の曲がすべて彼女について書かれているという考えはすぐ否定した。「すべての曲で彼女のことを歌っているわけではありません。彼女は私のミューズですが、さまざまな方法でインスピレーションを与えてくれます。音、プロダクション、必ずしも直接的なものとは限りません。よく間違えられます。悲しい曲を出したからといって、私生活とは関係ないんです」。ただしひとつだけ例外を認める。ボレロのエッセンスとロザリアの特徴的な歌声が散りばめられた「Aquel Nap ZzZz」はふたりの関係にインスパイアされたものだ。「あの曲は文字通り、彼女のための曲でした」。


ロザリアのニューアルバム『MOTOMAMI』は3月18日リリース


いつか

『Trap Cake Vol.2』の音楽はこれまでと少し違っている。「新しいデリバリー、歌い方、ラップ、変なメロディやピッチに挑戦しています。アンダーグラウンドで明快だけれども、スウィートさもあります」とラウは言う。プロダクションを自分自身で手がけるようになり、Abletonをいじりながら曲作りをさらに深めている。サウンド・プロデューサーとしてクレジットで使う名義「@akaelzorro」で、最近Instagramのアカウントも始めた。「結局のところ、自分の頭の中は誰にも理解してもらえないから、説明するより自分でやったほうが楽なんです」と彼は言う。


『Trap Cake Vol.2』のリードシングル「Caprichoso」

彼はサウンド・プロダクションがキャリアの次のステップかもしれないと考えている。「引退したら、いや、引退とまではいかなくても一区切りがついたら、もっと多くの人のためにサウンド・プロデュースしたいと思うかもしれません」と彼は言う。とはいえ、引退は遠い話だ。自分がやりたかったことはかなり達成した。音楽は世界中のほぼすべての場所で聞かれるようになった。自分がなりたかったパフォーマーにもなれた。そして母親は一日中働き続ける必要がなくなった。代わりに時間があれば一緒に旅するようになった。

しかし、それでも彼は、自分のキャリアの勢いを維持しなければならないと感じている。「家族がみんな働き者でしたから……自分もそうなんだと思います。常にハードワーカーでいたいんです」と彼は言う。いつか好きなだけ休める日が来ることも想像するらしい。「『丸1年休みたい』と思うときが来るかもしれません。1月1日に天井を見て『今日は何をしよう、12月31日まで何もない』って」。そしてこのバカげた妄想を笑い飛ばす。「いつか、いつかね」。

From Rolling Stone US.




ラウ・アレハンドロ
『Trap Cake Vol.2』
配信中
視聴・購入:https://RauwAlejandrosmji.lnk.to/TRAPCAKEVOL2

Translation by Akira Arisato & Kei Wakabayashi

 
 
 
 

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