秋山黄色『ONE MORE SHABON』に刻まれた「文脈」とは?

秋山黄色

20日(日)に迫った「ツタロックフェス2022」。今回の出演アーティストの中でトップバッターを飾る秋山黄色。彼の最新アルバム『ONE MORE SHABON』についてライターの三宅正一が考察。この機会にそのステージを目に焼き付けてほしい。

非常に濃密な10曲が並んでいる。サウンドプロダクションの振れ幅の大きさやボーカリストとしての迫力であり圧力、歌詞で描かれている感情の動きはやはり劇的であるが、その一方で、秋山黄色の音楽像が発する推進力の射程距離は、アルバムを重ねるごとにリスナーの世代やクラスタを問わない広袤と奥行きを獲得しているように思う。それはポップネスでありポピュラリティという言葉に置き換えることができる。

2020年3月4日リリースの1stフル『From DROPOUT』を皮切りに、2021年3月3日の2nd『FIZZY POP SYNDROME』、そして2022年3月9日に世に放たれたばかりの3rd『ONE MORE SHABON』と、ちょうど1年ごとに全10曲を収録したアルバムをリリースし音楽家としての成長を浮き彫りにしている秋山黄色。思えば、彼のフルアルバムの歴史は、コロナの世界以降に発表されていることになる。自らの出自と音楽表現に至るまでの背景を描いた『From DROPOUT』を経て、この時勢の中で1年に1枚のペースでフルアルバムを作り上げ、そして自身が提示すべき音楽家としての態度──この混沌極まる世界の実相に飲み込まれないアイデンティティ──を見極めた音と歌を提示したことは、今後の活動の背中を力強く支えていくのではないだろうか。



前作『FIZZY POP SYNDROME』の地続きにあるフェイズを意識して制作されたという『ONE MORE SHABON』。無軌道に展開、転調していくサウンドを不羈奔放な手つきでDTMで形象化し、それをバンドサウンドに変換することで生まれる無機質さと肉体性が拮抗する異様なグルーヴが疾走していく1曲目「見て呉れ」から、リスナーの耳を強引なまでに引き込んでいく。続く、破裂しそうなほどのエモーションを自由自在にコントロールするような様相で日本産然としたロックサウンドを響かせている「ナイトダンサー」も「見て呉れ」と同じく先行配信されていた楽曲だが、アルバムを構成するピースとして並ぶことでよりユニークな感触が増幅している。

印象的なのは3曲目「燦々と降り積もる夜は」以降の楽曲群が、やはりというべきか、ポップな聴き応えの余韻を残すものがかなり多いことだ。特に中盤から後半にかけて、5曲目の「あのこと?」における打ち込みのブラスを活かしたサウンドのテクスチャーやクワイアのようなムードも滲む歌メロは人懐っこく、EDMやエレクトロファンクなどを通過した現代的なポップサウンドでロマンティックな叙情性を表出させている6曲目の「Night park」、さらに郷愁を誘う和メロと夏の夜の物語を情景豊かに浮かべる7曲目の「うつつ」にはポップ職人的な表情さえうかがえる。そして、ドラマーに石若駿を迎えた9曲目の「シャッターチャンス」は縦と横のノリを織り交ぜながら、しかしミクスチャー的な着地はせずに、ロックとジャズやヒップホップのグルーヴを天衣無縫に編んでいるのが面白い。



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