米FOXニュース元職員が逮捕、「真の保守」求めロシアと蜜月に

ジャック・ハニック。2017年、ブダペストにて撮影。(Photo by Elekes Andor/CC BY-SA 4.0)

2022年2月、米FOXニュースの元ディレクター、ジャック・ハニックが逮捕された。ハニックには、ロシアの新興財閥「オリガルヒ」との商取引を禁じた米国の法律に違反して、ロシア人のコンスタンチン・マロフェーエフとビジネスを行なった容疑がかけられている。マロフェーエフは、ウクライナの分離独立主義者を支援したとして、米国による制裁の対象に含まれている。

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現在は英ロンドンに留置され、アメリカへの送還を待っているハニック。彼にかけられている具体的な容疑は、モスクワでロシアの宗教右派向けのテレビ局「ツァリグラートTV」を立ち上げ、さらにFBIに対して自分のビジネスへの関わりを偽証したとされる点だ。ハニックに対する起訴内容を公表したマシュー・G・オルセン司法次官補は、「ハニックは違法だと知りながら、マロフェーエフが世の中をかく乱するメッセージを拡散するのを支援した」と述べた。有罪が確定すると、ハニックには懲役25年が科される可能性がある(ハニックは罪状認否をまだ行なっておらず、弁護人の所在もわからない)。

アメリカでは保守系メディアとして知られるFOXニュースの元ディレクターが、どのようにして新興財閥「オリガルヒ」と関わりを持つようになったのか。その背景には、アメリカの伝統的モラルの崩壊に幻滅したハニックが、真の保守主義の継承者としてロシアに目を向けたからだ。

2016年の米大統領選挙の夜、共和党支持者のパーティー会場ではニックはこう語っている。ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアにおける、国家のモラルの目覚めを称賛したのだ。「ロシアでは東方正教会(註:カトリック教会、プロテスタント諸教会と並ぶキリスト教三大教派の一つ)を受け入れてきた。これは大きな転換だった。ロシアがキリスト教へ向いているのに対し、米国はどんどん遠ざかっている」

ハニックは2013年にロシアの首都モスクワへ移住し、プーチンに近い保守派のマロフェーエフが新たに「ツァリグラートTV」を立ち上げるのをサポートした。しかし2014年の年末に、金融で財を成した熱心な正教会信者のマロフェーエフが、ロシアによるウクライナ侵攻を支援したとして米国の制裁対象に指定された。

米国務省は、マロフェーエフを「クリミアの分離独立の気運を高めるためにロシアへ資金提供した張本人の一人」だとして非難した。さらに、ウクライナ東部で一方的に独立を宣言したドネツク共和国の当時の自称“首相”との緊密な関係についても、指摘した。米国政府はマロフェーエフを、「ウクライナの平和、治安、安定、主権、領土保全」にとっての脅威だとしている。

連邦政府の起訴状によると、ハニックはマロフェーエフとの商取引を中止するよう求めた米政府からの命令を聞き入れなかったという。それどころかハニックは、2015年4月に「ツァリグラートTV」を立ち上げた。マロフェーエフへ宛てたメールの中でハニックは、「あなたのビジョンを実現するため」だと書いている。

ハニックは、隠し立てすることなくおおっぴらに活動していた。「ツァリグラートTV」の番組は、クレムリンに近い広々としたスタジオで収録された。円柱にキューポラという中世の建築様式を模した造りのスタジオで、天井には青いローブを羽織ったキリストの姿が描かれている。フィナンシャル・タイムズ紙の特集記事「21世紀のビザンチウム」(2015年10月)の中で、ハニックはスタジオについて自慢げに語った(“ツァリグラート”は現在のイスタンブールにあたるコンスタンチノープルを表すスラブ語で、正教会の精神的な中心地であり、帝政ロシアが占領を目指した都市でもある)。

連邦政府の起訴状によると、ハニックは数年かけてマロフェーエフとの親交を深め、マロフェーエフがギリシャとブルガリアで運営する保守系テレビ局の財務状況をごまかす手助けをした。2021年にFBIから捜査を受けた際、ハニックは「マロフェーエフがブルガリア企業を支援していた事実は報道で知った」という虚偽の説明を行なったとされる。

【写真】コンスタンチン・マロフェーエフ

Translated by Smokva Tokyo

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