原田知世が語る「若さ」にとらわれない生き方、「守ってあげたい」を50代に歌い直す意味

 
「守ってあげたい」を50代に歌い直す意味

─アルバムの最後に入っている「シンシア」は、オリジナルは1997年のアルバム『Flowers』に収録された曲で、今回は『music & me』に続いて2度目のセルフカバーになりますね。松任谷由美さんの「守ってあげたい」も、初出は1983年。以前のバージョンと聴き比べてみて、どんな感想をお持ちになりましたか?

原田:「シンシア」は、20代、40代そして50代と歌ってみて、嬉しかったのは50代になった今の自分が歌うバージョンが一番好きだと思えたことです。30代の頃は、昔の自分の歌を聴くと「恥ずかしい!」って思っていました。39年前の「守ってあげたい」なんてもう子供過ぎて、今はただただ愛おしいですね(笑)。この時の自分の声を、音源として残してくださった皆さんにありがとうって。そんなふうに、過去の自分を客観的に見られるようにもなっていくんだなと。

─歌い直してみて、何か発見はありました?

原田:本当にいい曲だと思います。「守ってあげたい」は、歌詞も今の方が合っているんじゃないかな。当時は、ちっちゃい子供が一生懸命「守ってあげたい!」と歌っている、その「尊さ」もあるけど、自分が大人になり「強くて引っ張ってくれる存在」という男性像も変化して。実は男性の方が、女性よりも繊細な部分があったり、女性にはない弱さがあったりすることを分かった上で、「守ってあげたい」と歌うのとでは、全然表現の仕方も違うなって思います。

─「ヴァイオレット」では新たな歌い方に挑戦したり、ゴローさんとは毎回違うアプローチを試みたり、そういう原田さんのモチベーションはどこから来ているのでしょうか。

原田:以前と同じことをやろうとしても、同じようには出来ないと思うんです。だとしたら、そこじゃないところに行ってみるのもいいんじゃない?って。何かいいものが出来て、そこにとらわれ臆病になってしまうのも嫌なので、それはもう一旦終わりにして次へ進むようにしています。

─そういう姿勢は以前からずっと持ち続けてきたのですか?

原田:いえ、ここ最近強くなってきました。人って変化していくものだから、例えば「若さ」などにとらわれすぎるのもなあ、と思うんです。逆に、昔はできなかったことができるようになったり、これはもう失ったけど、代わりにこれを手に入れたり、そういうことって絶対にある。そっちのポジティブな方に焦点を当てて自信が持てるようになったら、それはとても幸せなことじゃないかなと。

40代のときはまだそこまで思わなかったですが、50代になってからは、自分が健康でいられていろんなことができる時間というのは、長いようでそんなに残ってないのかなと思うようになりました。長生きはできるだろうと思いますけど、確実に見えてくる先がある。そう思うと、今がとても大切なのだなと気づき始めたというか。

─僕も50代なのでとてもよく分かります。

原田:ですよね? 周囲の声や、バランスのことばかり考えないで、自分は何をしたいのか、純粋な気持ちに耳を傾けてそれを実行していったり、人に伝えたりすることはとても大切だと思うんです。かえってその方が、周りとのコミュニケーションもすごくうまくいくようになる。そのことが少しずつわかってきて、今はとてもゆったりと構えながらもしっかりと見つめる、みたいな。そんな心境になってきました。

─失っていくこと、変わってしまうことにとらわれしがみつくよりも、変化していくこと、手放すことを恐れず次のステップに進んでいく方が、素敵に年を重ねられるのだということを、今日お話を聞いていて再認識しました。最近、ゴルフも始めたそうですね。

原田:そうなんですよ(笑)。自分でも意外だと思いますが、やってみたらメンタルな面でも強くなりました。例えばライブの初日、ステージに立った時の気持ちとか、映画の撮影に初めて入る時と同じ緊張感をゴルフ中も思い出すんです。そういう時にどう対処したらいいのかなど、共通するところがたくさんある。何より自分がリラックスして平常心でいないと、力を出しきれないということが分かって。それが仕事にもとてもいい影響を与えています。

それに、さっきも言ったように年齢と共に出来なくなっていくことが増えていく中で、「上手くなっている」ことを実感できるのが嬉しくて。「まだまだ伸びしろあるぞ!」と思えるんですよ。

─最高です。

原田:(笑)。あと、何も考えないで夢中になれるのもいい。練習している間、一切他のことを考えない。そんなことってなかなかないじゃないですか。大体常に仕事のこと考えちゃいますよね、覚えなきゃならないセリフのことが頭に浮かんでしまったりして。でも、ゴルフをやっている時間だけは全部ふっ切れるから、メンタル的にもフィジカル的にもとてもいいです。

Tag:
 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE