中村佳穂の次なるステップ、アンセム目白押しの『NIA』を支える「明晰さ」

中村佳穂

中村佳穂による待望のニューアルバム『NIA』を、ライター/批評家・imdkmが考察。

2018年の2ndアルバム『AINOU』がリスナーからクリエイターまで幅広く注目をあつめ、以来破竹の勢いでめざましい活躍を繰り広げる中村佳穂。とりわけ2021年には細田守監督による『竜とそばかすの姫』で歌唱のみならず主演(!)までを務め、同年末には同作の主題歌millennium parade × Belle (中村佳穂)「U」で第72回NHK紅白歌合戦に出演し大きなインパクトを残した。また、同年は入手困難が続いていた1stアルバム『リピー塔がたつ』(2016年)も再発。次なるステップへの準備とでも言いたくなる一年だった。

そんな中村による待望の3rdアルバム『NIA』がリリースされた。『AINOU』の制作以来の盟友、荒木正比呂や西田修大らと共に制作された、3年半ぶりのフルアルバムだ。『AINOU』がコラボレーターと共にソングライティングやアレンジの向こう側にあるサウンドの領域へ歩みだす意欲作だったとすれば、『NIA』は冒険のその後を感じさせる洗練に特徴づけられる一作だ。

中村は今作のリリースに先駆けてNHK FMの人気番組「サウンドクリエイターズ・ファイル」でパーソナリティを担当した折、「今作は“アンセム”、名曲ですね。名曲アルバムにしようぜ!という感じでつくってきたアルバム」とさらりと語っていた(2022年3月21日放送分にて。そんな話をまくらに、アルバムに関わったミュージシャンやクリエイターに各々の“アンセム”を選曲してもらう、という構成だった)。言い得て妙というか、もちろん『AINOU』や『リピー塔がたつ』でもそのキャッチーさは花開いていたけれども、『NIA』の多くの楽曲は構成の妙やサウンドの明晰さを通じてキャッチーさに力強い土台が与えられ、“アンセム”たる風格をただよわせている。

サウンドの明晰さ。『NIA』を聴いていてまっさきに感じた点だ。ユニークなテクスチャを湛えながらも、言葉やメロディやリズムがサウンドに埋没することなくはっきりとした存在感を示している。デッドな響きを基調として整理されたサウンドは、中村のボーカルをはじめとしてひとつひとつのパートが動き回る様子をクリアに感じさせてくれる。




たとえばシングルとしてリリースされた「さよならクレール」は、BPMも速ければリズムの刻みも非常に細かく、めまぐるしくテクニカルな演奏が随所に聴かれる。エレクトロニックな音色や構成、リズムのパターン(ドラムンベースやフットワークのそれ)を取り入れつつもダンスミュージック的なダイナミクスのコントロールはあえて抑えてある。むしろ強調されているのは、石若駿の性急さと端正さが同居するようなドラムや、西田修大によるベース(特に2分11秒ごろからのソロ)の動きだ。

あるいは、同じくシングルだった「アイミル」は、だいたんな余白が印象的なミドルテンポのグルーヴィーな一曲。アンビエンスの力ではなく、ギターにせよベースにせよ、デッドなサウンドの表面に宿るテクスチャでがっちりと耳を惹きつけつつ、幾重にも重なり合いながら繊細なリズムを刻みつける中村のボーカルが図抜けた存在感を放つ。

短期的なカタルシスを避けてうねるように展開する「ブラ~~~~~」は、聴き心地こそただならない緊張感に浸透されているが、その緊張感をもたらす要素のひとつひとつ――たとえばリズム隊にまとわりついて危うげな響きをもたらすストリングスなど――はきわめて明晰だ。

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