ザ・リーサルウェポンズが異様さを大切にする理由、作家・爪 切男が聞く

特技は作曲、でも好きじゃない

―同じ作り手という立場からお聞きしたいんですが、自分が好きなものや自分の経験を作品に落とし込んでアウトプットするとき、どういうことを心がけてますか?

アイキッド:第一に〝押しつけない”ということを大事にしていて。なるべく自然体でオフビートというか。『ナポレオン・ダイナマイト』っていう映画があるんですが、説教臭くもなく、なおかつクスッと笑える映画なんですね。あのアメリカ人にも日本人にもわかるセンスとバランスには影響を受けてます。あと人間性もそうですけど、アウトプットの仕方が上手くなったのはたぶん年齢です。自分で言うのはサムいんですけど、リスナーに不快な思いをさせない軽めの毒と重めな愛のバランスをとりながら一曲として完成させることができるようになったのは、ここ数年のことですね。二十代の頃だったら、アメリカ人がバカなこと言うだけのパンクバンドになっていた気がします。

―ジョーさんから見て、アイキッドさんの人間性の変化はわかりますか?

アイキッド:初めに会った頃、アイキッドちょっと怖かったでしょ?

サイボーグジョー:いやー、全然。

アイキッド:ポンズ始めたぐらいのとき。

サイボーグジョー:あー、あのとき? ……めっちゃ怖かったよ。

―(笑)。

アイキッド:最初はブックマートの歌を作るという一回こっきりの企画だったので、こっちも作り笑顔で「いいでしょ~」って楽しくやってたんですけど、急にジョーと店長さんが「続きをしようよ」って言い出して。何も作れないのによくそんなこと言えるなって(笑)。結局なし崩し的にやることになってしまい、そのときから「もう楽しくないぞここからは!」みたいな体育会系のヤバい先輩になりました(笑)。

サイボーグジョー:ベリーベリーストイック! スタートのとき、超ビックリしたー。

アイキッド:急に鬼になったから(笑)。

ー楽しいことをするのも楽じゃない(笑)。

アイキッド:基本ね、楽しいことだけやって成功しようと思ってますからね、この人(笑)。

―私の話で恐縮ですが、文章を書いてるときって、プロレスでいうところの入場シーンのハイテンションがずっと続くとばかり思ってたんです。ショーン・マイケルズの『SEXY BOY』を聴いてるときみたいな(笑)、でも現実は甘くなかった。書くことにこだわりはあるんですけど、好きではないなってことに気付いたんです。

サイボーグジョー:HBK!

アイキッド:僕も作曲全然好きじゃないです。できちゃうからしょうがなくやっているだけで。

―私にとって「文章」は自分なりのエンターテインメントを作るために残された唯一の手段なんです。だから思ったようなリターンがなくても必死こいて書くしかない。利益とか効率のいいことばかりやってると薄っぺらな人間になりそうなので、頑張って文章を書くことで人としての自分の魅力が増しているんだと暗示をかけて机に向かってます(笑)。

アイキッド:全く同じ感じで私も作業してます(笑)。その落とし所すごくいいですね。ちなみにどのへんで気づきました? 自分は〝書ける人〟だって。

―きっかけはいじめだったんです。小学生の夏休みに、クラスのガキ大将に脅されて無理やりそいつの絵日記を書かされたんですね、夏休みの宿題です。そのときに辛さよりも「あ、俺、他人の夏休みを丸々全部作っちゃったぜ」っていう変な自信の方が勝っちゃったんです。始まりがそんな感じだったので、文章が好きというよりも文章を書くことでしか生きていけそうにないので意地でも捨てられなかったっていう感覚です。

アイキッド:軽々しくは言えないんですけど、人間って何かしらの〝ペーソス(悲哀)”がないとクリエイティブの方に意識が向かないんじゃないかと常々思ってます。

―大人になってから、そのことを痛感しました。あの……アイキッドさんは、音楽をやめようと思ったときはなかったんですか?

アイキッド:なんて言うんだろう……。 ずっとやめているんですよ、正直。自分のことをミュージシャンだと思ってないし、工場とか派遣とかやりながら好きな音楽を続けられたら満足というか。半分ヤケに近かったですね。これで食っていくぞー! っていう明確な意志もなかったし。ジョーにとって音楽やバンドは「趣味」なんですけど、私は金を稼ぐ「特技」なので。月金で仕事をして、空いた土日で作った曲をジョーに歌わせて小銭稼ぎしよう。月5万ぐらいになればいいかと思ってたら、なぜかこっちがメインになってしまい、今に至るという形です。

―すごくよくわかる! 意外な共通点がたくさんあって嬉しいです(笑)。

Rolling Stone Japan 編集部

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