2018年に小説『死にたい夜にかぎって』で文壇デビューを飾り、同作はドラマ化、2021年には3ヶ月連続で書籍を刊行するなど、注目の作家・爪切男。一方、2021年にキャバクラを舞台にしたおじさんの恋愛青春小説『嬢と私』を上梓した40代バツイチ独身新人作家・アセロラ4000。2人に共通するのは、プロレスをこよなく愛していることと、文章の中に、プロレスをテーマにした文章やオマージュした表現が登場することだ。お互いのことを認識はしていたが、ちゃんと話すのはこれが初となる2人。対談を進めていくと、同じプロレス好きでも、週プロ派とゴング派で文章の書き方にも違いがあるなど、意外な事実が浮かび上がって来た。団体も増え、細分化されながらも活況を見せる現代のプロレスについて、2人のプロレス遍歴を辿りつつ、ざっくばらんに語ってもらった。
―お二人とも小説内でプロレスネタを引用されることが多いですが、世代はちょっと離れているんですよね?
爪:俺は今年で43になります。アセロラさんは大先輩です。
アセロラ:いやいや。年齢は私のほうが上ですが、小説家としては爪さんのほうが大先輩ですよ。ルーツでいうと、地元に来たプロレスを見たのが始めなんですか?
爪:プロレスを見ていたのはTV中継がメインで、初観戦は1992年のオリエンタルプロレスの旗揚げ戦(入場無料)でした。家が貧乏だったのでなかなか会場に足を運べなかったんです。そういえば、昔の新日本プロレスの地方興行って、メインが8人タッグとかで、とりあえずみんな自分の得意技をちょこっと出してくれて、最後に木村健悟が勝つのを見せられるみたいな感じだったのをよく覚えています。
アセロラ:木村健吾さんが第一線でやっていたときですね。(※1)
※1:新日本プロレスの元レスラー。必殺技「稲妻レッグラリアット」を武器に、新日正規軍の名バイプレイヤー的に活躍。
爪:昔、アマレスをやっていた俺の親父は、なぜかプロレスがあまり好きじゃなかったんです。それもあって俺は逆にプロレスに興味が湧きました。それが小学4年生ぐらいだったんですけど、意地悪な親父が、あれはこういうことで、こういう仕組みなんだよと、プロレスのファンタジーの部分を全部バラしてきたんです。
アセロラ:「プロレスっていうのはこうなってる」みたいなことを言ってきたわけですね。
爪:意地でも俺をプロレスから引き離そうとしたんですけど、逆にのめり込んでしまったんですよね。そんな胡散臭いエンターテインメントが、何千人もの人を熱狂させてるのか!と。プロレスの他にマジックも好きで、引田天光とかナポレオンズが大好きでした。とくにナポレオンズの、すごい技術を持っているのに、あえてしょうもないマジックをするという「能ある鷹は爪を隠す」の姿勢がかっこよかった。ぶっちゃけウソとかリアルとかタネとかどうでもよかったですね。人生は楽しければそれでいいみたいな。達観し過ぎたイヤな子供でした。