爪切男とアセロラ4000、作家2人が語る「一番スゲェのがプロレス」な理由

アセロラ:僕の世代だとUWF ができた頃なんですけど、UWFが生まれてこれまでのプロレスが1回否定される時期があったんですよ。リアルなプロレスを求めて団体が生まれたし、観客も熱狂していた時期を経験してるんですけど、そこはどうですか?

爪:俺は「U」を経験できていない世代なんですよ。闘魂三銃士の直撃世代であり、武藤敬司の大ファンだったこともあり、リアルの追求よりも見た目が派手で楽しいプロレスのほうが俺は好きでした。でも、「U」を知らないのはちょっと負い目ではあるんですよね。ここ数年UWF関連の本がたくさん出版されましたけど、あれを読んで盛り上がれる人たちがちょっと羨ましかったです。とりあえず後追いで全部読んではいます(笑)。

アセロラ:なるほど、そこの違いって結構大きいかもしれないですね。爪さんは79年の生まれですけど、自分の中でプロレスにどっぷりはまり始めたなというのは何歳ぐらい?

爪:1991年頃ですかね。小学6年生でした。G1クライマックスが始まった年ですね。とにかく武藤さんが大好きで、フラッシング・エルボーやスペース・ローリング・エルボーを真似してました。武藤さんが一時期苦手にしてたスコット・ノートンって、アームレスリングの世界チャンピオンだったじゃないですか。そんな化け物みたいな外国人レスラーが、武藤さんのああいう感じの側転エルボーを喰らってのたうち回る。うん、やっぱりプロレスには夢があるなと。

アセロラ:あはははは。

爪:自分がクラスで陰キャの方だったから、武藤さんの持つスター性と、いい意味での天真爛漫さに憧れたんです。


爪切男(Photo by Jumpei Yamada)

ーアセロラさんの原体験はなんだったんでしょう。

アセロラ:ある日テレビをつけたら、いわゆる初代タイガーマスク=佐山聡さんが出ていたんです。それ以前にも、お爺ちゃんが見ていた全日本とか、ブッチャーの時代の試合もちらっと見たんですけど、ちゃんと見た覚えがあるのが初代タイガーマスクで。同時にアニメもやってたので、「あれ? タイガーマスクが本当にテレビで動いてるぞ!」と。ただ、うちの親父とかも、こんなのインチキだとか平気で言うわけですよね。それに傷ついているところに、プロレスのいわゆる決まりごとみたいなものがないんだよというUWFが誕生した(※2)。キック、パンチ、関節技、ロープに飛ばないとか、衝撃を受けました。それが後々の総合まで繋がる歴史になっていくんですけど、見始めた世代によって違うと思うんですよね。

爪:俺は、藤原組(※3)とかUインターは世代的に間に合ったので見ていました。

アセロラ:新日とUの対抗戦は?(※4)

※2:新日本プロレスを突如離脱した前田日明をエースとして1984年に立ち上がった第1次UWFのこと。
※3:第2次UWF解散後、藤原喜明が中心となり船木誠勝、鈴木みのるらと立ち上げた団体。
※4:1995年10月9日に東京ドームで行われた新日本プロレスとUWFインターナショナルの全面対抗戦。

爪:東京ドームに行きたかったけど金がなくて無理でした。TVの生中継もなかったから朝からずっと悶々としてて(笑)。1995年のあの頃って、今みたいにインターネットが普及していなかったので当日の結果速報を知る術がなかったんですよね。そんなときに役立ったのが『週刊プロレス』が運営していたテレフォンサービス。試合終了直後に週プロの記者が試合結果を肉声で吹き込んでくれるんですね。それを頼りに電話をかけるんだけど、俺と同じ境遇のファンが全国から電話してるから全然繋がらない(笑)。貧乏な我が家はダイヤル式の黒電話を使っていたので、リダイヤル機能があるプッシュフォンを使ってる奴等よりも不利でした。結局、朝の4時になっても繋がらない。すると、深夜にずっとジーコ……ジーコ……と電話をかけ続けている俺に腹を立てて、親父が起きてきちゃったんですね。こちらの説明を聞かずにいきなり電話線を引っこ抜こうとするもんだから、電話が繋がらないイライラも合わさって、俺は電話の近くにあった厚みのあるタウンページで親父を思いっきりぶん殴っちゃったんですよ。そうしたら当たり所がよかったのか親父を失神KOしちゃったんです。呼吸を確認したらちゃんと息はしていたので、保健体育で習った通りに気道確保だけしてあげて……倒れてる親父を横目に、またジーコ……ジーコ……と電話してました。

アセロラ:人を殺めるかもしれないぐらい知りたかったんですね(笑)。

爪:そこまでしてでも、メインの武藤敬司vs高田延彦の結果が知りたかったですね。朝の5時ぐらいにようやく繋がって、「試合時間16分16秒……足四の字固めで……」という記者さんの声を聞いた瞬間にもう頭の中でいろいろ妄想しましたね。うわ! 高田性格悪い、と。

アセロラ:どうしてですか?

爪:アキレス腱固めとか「U」の技を使わずに、あえてクラシックな技で武藤を沈めて、格の違いを見せつけたのかなって思ったんです。どうしても武藤と高田ってなると高田が勝つんだろうなって思ってたんですよね。だから「武藤敬司の勝ち!」って聞いたときは、もう畳に突っ伏して泣いた! ただ泣いた! ですよね。その後、息を吹き返した親父にボコボコにされて殺されかけるんですけど、武藤が勝ったことが嬉しかったので、あのまま殴り殺されていても悔いはなかったですね。

Rolling Stone Japan 編集部

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