クルアンビンらのベースから読み解く「休符」の役割、鳥居真道が徹底考察

今回は休符の話をベースに限定します。ここではベースが音をミュートして次の音を出すまでの時間を休符と呼ぶことにしましょう。

ベースは、弦を振動させて音を出す楽器です。ボーンと弦を弾くと音がだんだん小さくなっていきます。音の減衰を待たずに消音するには右手や左手で積極的に介入しなくてはなりません。ベースにおいてはミュートのテクニックを身につけることが必須科目のひとつとなっています。名人、細野晴臣はなぜミュートするのかと質問された際に、伸ばしっぱなしの音が嫌いだからと言っていました。

弦をベチっと叩いてミュートする人がいますが、私の見解としては、これを休符に含むわけにはいきません。こうしたミュート方法は、音価の短いパーカッシブなフレーズの中に出てくるのであれば効果的でしょう。しかし、音符と休符の落差を聞かせたいフレーズであれば、弦の振動を静かにすばやく止めたほうが断然クールです。「ベチ!」と音を鳴らしてミュートするのは、エンターを押すのにわざわざ「ターン!!」と大きな音を出すようなもので、本人の自己満足でしかありません。あくまで好みの話に過ぎませんが…。

さて、このへんで具体的な演奏を聴いていきましょう。当代きっての休符マスターといえばこの人。クルアンビンのローラ・リーです。音源をリリースするたびに演奏が研ぎ澄まされていくので、毎回驚かされます。曲は、昨年リリースされたシングル「B-SIDE」です。大成功を収めたリオン・ブリッジズとのコラボレーション『Texas Sun』の続編としてリリースされた『Texas Moon』に収録されています。



ローラ・リーは、気まずい時間としての休符の長さをコントロールすることで、曲にメリハリをつけています。緊張感を強めに出したいときは休符を長めに取る。リラックスしたムードを漂わせたいときは休符を短めに取る。ベースに耳を傾けて曲全体を聴くと、このように緩急を付けていることがわかると思われます。そしてやはり休符が長いとファンク値が上昇しますね。

2拍目のキック、あるいはスネアが鳴らされる箇所では、休符でスペースを作って、キックやスネアをマスキングしないように務めています。ジェームズ・ジェマーソン・マナーのプレイですね。ここでもやはり「休め」という指示を受けて、先生の話を傾聴せざるを得なかった小中学生の頃を思い出します。休符は他の楽器の音を聴く部分でもあります。ここでベチっと弦を叩いてミュートするのではなく、スネアの音を素直に響かせたほうがエレガントだと思います。

Rolling Stone Japan 編集部

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