Open Reel Ensembleが語る、妄想ジャンル「マグネティックパンク」とは?

Open Reel Ensemble、2022年3月27日にGinza Sony Parkにて撮影

 
唐突だが、オープンリールがどういうものか知っているだろうか。オープンリールは、1960年ごろに普及した、磁気テープを利用した記録媒体だ。では、そのオープンリールを楽器として演奏する者達が存在することはご存知だろうか。オープンリールを「磁気民族楽器」と呼び、独自に編み出した奏法で異国情緒あふれる不思議な音色を奏でる集団――それが、Open Reel Ensembleである。

3月25日に新曲「Magnetik Phunk」とともに、新たな試みとしてデジタルブックをリリースし、3月27日にはGinza Sony Parkでライブを生配信したOpen Reel Ensemble。「マグネティックパンク」という妄想世界を下敷きに、実験的でありながらどこかノスタルジーな気分を掻き立てるようなパフォーマンスを披露した。今回は、そんなライブ直後の彼ら(和田永、吉田悠、吉田匡)にインタビューを敢行。「マグネシア」、「オープンリールのダンスフロア」――独特の単語が次々飛び出し、予測もつかない方向に広がりを見せるオープンリールの世界を覗かせてもらった。


ライブ本番の様子はSony Park公式YouTubeチャンネルのアーカイブから視聴可能


オープンリールは「磁気民族楽器」

―ライブ拝見させていただきました! 正直、どんな内容になるのか予想がつかなかったのですが、異国情緒感もあり、ノスタルジーさもあり……「磁気民族楽器」の意味が少しわかった気がしました。基本的な質問になりますが、皆さんのオープンリールデッキとの出会いを教えていただけますか?

和田:まず僕がオープンリールデッキを譲り受けて、でもそのモーターが壊れていたから手で回したんです。その時に出た「ぎゅわーんちゅぴーんちゅぴょーん」という音で、時空を自らの手で歪めているような感覚になって、「マグニエキゾチックな音だな」と感じました。その瞬間から、音が出るなら楽器なんじゃないか、これは過去という異国からやってきた民族楽器だと確信しました。それで、当時高校生だったんですが、二人に「こういう民族楽器が過去からやってきたから触ってみてくれ」と。



―いきなりそう言われて、お二人は戸惑いませんでしたか?

和田:割と自然だった気がする。

匡:自然だった。「過去という異国」の部分はよくわからなかったけど、昔から和田君の発見はいつも奇妙だったし、おもしろそうだなと。

悠:当時から和田は民族楽器収集家みたいなことをしていたんですよ。それで、最初はおもしろ要素の一つとして、その頃組んでいたバンドで、オープンリールをエフェクターみたいに導入していました。でもいつのまにかたぎっちゃって、「他はいらないからオープンリールだけやろう!」ってOpen Reel Ensembleを結成したのが10年くらい前。

和田:その頃の奏法は、DJのスクラッチみたいな感じで剥き出しのリールをリズミカルに手で回す感じ。その場で録音した音をすぐに歪められるのが胸熱でした。

悠:そこから、もっと楽器としてのポテンシャルがないかっていうのを模索するようになりました。例えば竹竿にテープを張って弓のように使う「磁楽弓奏法」は、両手を塞ぎたくない、片手でテープを行ったり来たりさせたい、ていうのがきっかけで思いついたんです。

和田:それで徐々に回す、揺らす、引っ張る、はじく、叩く、担ぐっていうのを、ここ数年の間に発見してきました。

匡:あのデッキを触って音が出るっていうおもしろさが、いつまで経っても尽きないんですよ。わかりきらないし、追求してもしきれない何かがある。触り方によって打楽器、弦楽器、オルガン、サンプラー、エフェクター、SE生成機など全く違う顔を見せる。これを何と解釈したらいいんだろうってずっと考えてて、ある段階で「これは自分たちが知っている『楽器』とは全く違う、未知なる進化の歴史を持った民族楽器なんだ」って理解する事でかなりしっくりきました。





―その「民族楽器」という捉え方だったり、「マグネシア」という発想が独特ですよね。

和田:「これは磁気民族楽器だ!」って誤認した時点で、「オープンリール音楽文化」の妄想が始まったんです。現代って、インターネットやデジタルが発展してサイバーパンクな未来になるってみんな思っていますよね。でも、たとえば磁気テクノロジーが過剰発展した「マグネティックパンク」の世界になった場合、そこにはオープンリールのビルがあるかもしれないし、磁気メディアで舗装された道路や、巨大オープンリールの上で踊るダンスフロアがあるかもしれない。マグネシアっていう国でそれらが発展してると仮定すると、楽器としてのオープンリール、弓楽器的なものやパーカッション的なものなど、いろんな奏法が「あるはずだ」と。それで色々試してみたら、マグネシアンなサウンドが出てきたんです。

―音楽の話を聞いているはずが、考古学の話を聞いているような気分になります。

悠:でも実際、民族楽器の成り立ちとかを調べていくと、例えば西洋音楽として使われていた楽器が、異国に流れ着いた先で本来の想定とは違う使い方で解釈され、魔改造されて民族楽器として定着することがあるんですよ。

和田:インドだとバイオリンを縦に持ったりね。タイプライターとお琴が日本で合体して生まれた大正琴が、インドに渡ってめっちゃ速弾きされる伝統楽器になってたりとか。

悠:それと似ていて、オープンリールのリアルタイムでない世代の人間が、使い方がわからない状態でいきなり触って、間違った使い方で出した音がおもしろいっていう。

和田:そもそも、僕らは正しい使い方っていうのがあんまりよくわかってないし、普通に回ってる時よりも変な回り方をしている時の方にすごく関心があります。

 
 
 
 

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