米屈指の進学校でナチス式敬礼、街に潜む「差別」の悪魔

ネットに拡散された問題のシーン ©Rolling Stone

米アラバマ州のマウンテン・ブルック高校はアメリカ屈指の実績を誇る進学校であり、現在は州で2番目にレベルの高い公立高校だ。2021年1月、同校の歴史の教師がクラス全員にナチス式敬礼をしながら「忠誠の誓い」(訳注:星条旗を前にしてアメリカ合衆国への忠誠を誓う儀式、アメリカの公立小学校では毎朝行われる)を唱えさせたとして全米の注目を集めた。

【動画を見る】ナチス式敬礼をする教師

建前上、生徒たちはかつて「ベラミー式敬礼」と呼ばれた片腕を上げる敬礼方法について議論していたことになっている。ベラミー式敬礼は1940年代までアメリカで行われていたが、それ以来使用されなくなった。理由は説明するまでもないだろう。だが学校側の主張は、大量虐殺を行ったファシズム体制と永遠に結びつけられている敬礼方法をなぜ教師が生徒たちに再現させたのか?という疑問には答えていない。教師の呼びかけに応じて、ほとんどの生徒が言われるがまま席を立った。「ショックを受けました。それと同時に、どうしてみんながこんなことをするのか理解できませんでした」と、クラス唯一のユダヤ系の生徒であるエップス・タイテルさんは言った。彼はただただ驚き、動くこともできなかった。

1月18日、歴史の授業を終えて教室を後にしたエップスさんは、母マリヤさんにショートメッセージを送った。「息子の言うことには半信半疑でした。真実ととらえるには、あまりに常軌を逸していましたから」と彼女は振り返る。エップスさんのクラスメートのひとりは持っていたスマホを取り出し、事件を録画していた。動画を見た後でさえ、「夫と私は、努めて教師の行為を大目に見ようとしました。先生の行為は愚かだけど、それは誰にでもあることだ、と思ったのです。その教師とは面識がありましたし、私たちは彼のことが好きでした。今回の件はなかったことにしようと思いました——翌日までは」

その翌日、エップスさんは授業中に呼び出され、教頭と敬礼を促した歴史の教師と面談させられた。例の動画がネット上に拡散していたのだ。そこで彼らは、クラス唯一のユダヤ系の生徒であるエップスさんが犯人に違いないという誤った結論を導き出した。「教頭先生から、僕がマウンテン・ブルック高校の面目をつぶしていると言われました」とエップスさんは詳細を語った。「歴史の先生に謝罪しなさいと、教頭先生に言われました。僕は謝りませんでした。謝る必要なんてないと思ったからです」。エップスさんは、動画を撮影したクラスメートの名前は明かさなかった。「学校側の対応は、被害者が悪さをした張本人に謝罪することを要求するようなものです」とマリヤさんは言った。「それに加えて私たちは、息子の口からこうしたことを聞かなければいけませんでした。あの子はひどく動揺し、傷ついていたというのに」。教師との面談は、マリヤさんにとって学校側が一線を越えた瞬間だった。学校側の粗末な判断は、単なる“偶然”ではなかったのだ。

【写真を見る】事件が起きたマウンテン・ブルック高校

Translated by Shoko Natori

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