ロバート・グラスパーが語る、歴史を塗り替えた『Black Radio』の普遍性

 
挑戦の場としての『Black Radio』
シリーズにおける変化と一貫性

―あとはゲストの話でいうと、今回の『Ⅲ』にエスペランサ・スポルディングが参加していたのは意外でした。

グラスパー:どこが意外なの?

―今までこのシリーズで、『2』に参加したノラ・ジョーンズを除いて、ジャズ・カテゴリーの人は起用してこなかったですよね。だから、エスペランサとグレゴリー・ポーターの参加に驚いたんです。

グラスパー:彼女はジャズの枠を超えて、幅広いサウンドをやるようになってるからね。以前と少し違ったこともやってみたいと思ったんだ。それにNYのブルーノート・ジャズ・クラブでのレジデンシー(昨年10月1日〜11月7日にかけて行われた長期公演。33夜で全66回のショーが行われた)をやってた時に、彼女がゲストで参加してくれた夜もあった。一緒にショーをやったからなおさら「彼女はジャズだけではなく、もっと別のサウンドでも歌える」と確信してたんだ。エスペランサが歌っている曲(「Why We Speak」)はかなりジャジーだろ? ジャミロクワイみたいなジャズ・ファンクのヴァイブなんだ。この曲は彼女だからうまくいったし、やる前からうまくいくと確信してた。

それに今回は、いつもと少し違ったこともやってみたかった。『Black Radio』では毎回必ず、少し違うことをやるようにしている。『Ⅲ』でいえばジャヒ・サンダンス(グラスパーが「俺のサウンドの一部」と呼び、ライブにも帯同しているDJ)が一緒にプロデュースしてくれた、ミュージック・ソウルチャイルドの「Everybody Love」もそう。俺にとって初のハウス・ソングだ。




エスペランサ・スポルディング
20歳でバークリー音大の最年少講師となった逸話もある21世紀ジャズ屈指の才能。歌、ベース、作編曲の全てが最高峰。Qティップと組んだR&B寄りの2012年作『Radio Music Society』など、作風は多彩でハイブリッド。プリンスからジャネール・モネイまで幅広く交流。現在は音楽家兼ハーバード大学教授。(Photo by Samuel Prather)

―では、グレゴリー・ポーター参加の経緯は?

グラスパー:昔から一緒にやろうって話はしていたんだ。彼とはコロナ禍が始まる前、ブルーノート・ジャズ・クルーズで一緒だった。そこで俺のバントとグレゴリーが共演したんだ。そのときに俺たちはやっぱり何かやらなきゃダメだって話をして、俺はグレゴリーに「R&Bを歌わせてみせる」と言ったんだよ。彼はジャズを歌わせたら最高だけど、あの声はR&Bをやっても最高だと思ったからね。彼は今こそ幅を広げるべきタイミングだと思ったんだ。だから、「俺がR&Bのアルバムをプロデュースする」と言ったら、彼も「OK」と返事してくれた。でも、その前に『Black Radio』に参加してもらうと伝えたんだ。

その後、彼はレデシーとツアーを回っていたんだけど、パンデミックの影響でキャンセルせざるをえなくなって時間ができた。そこで俺は閃いたわけだ。「グレゴリーとレデシーに一緒に歌ってもらおう!」ってね。しかも幸いなことに、二人は俺のスタジオで録音することができた。ちょうどコロナのピークが一旦去って、色々と緩和されて大丈夫になってきた時期だったから、二人同時にスタジオに入ってもらうことができて最高だったよ。



グレゴリー・ポーター
パワフルな歌唱が話題を呼んだ2010年のデビュー作『Water』でいきなりグラミー賞にノミネート。ドン・ウォズがブルーノート社長に就任する際、真っ先にレーベルへ招き入れたのは有名な話で、2013年作『Liquid Spirit』は全世界で100万枚を売り上げた。今や誰もが認める現代ジャズ・ヴォーカルの代表格。

―ジェニファー・ハドソンについても聞かせてください。彼女は素晴らしいボーカリストであると同時に、『ドリームガールズ』『リスペクト』といった映画で素晴らしい演技を見せてきた実力派女優でもあります。

グラスパー:彼女は俺のショーに遊びに来たり、ステージに上がって歌ってくれたこともあった。そのときに絶対一緒にやらなきゃならないと確信したんだ。だから彼女のことはずっと頭の片隅にあった。次に『Black Radio』を作るときはジェニファーに参加してもらおうと思っていた。ジェニファー・ハドソンは(1981年のミュージカル版)『ドリームガールズ』でジェニファー・ホリディが演じた役を、映画で演じて「And I Am Telling You」を歌っただろ? 実を言うと、俺が有名アーティストと生まれて初めてやったギグはジェニファー・ホリディだったんだ。俺が高校生のとき、ジェニファー・ホリディがショーでヒューストン(グラスパーの地元)に来たんだけど、彼女のピアノ・プレイヤーが飛行機に乗り遅れて来れなくなった。それでスタッフが俺の高校に来て、「これからジェニファー・ホリディのコンサートで弾いてくれ」って俺をクラスから呼び出したんだ。それで「And I Am Telling You」をジェニファー・ホリディのために弾いた。だから、これですべての縁が繋がったという感じだね。




ジェニファー・ハドソン

2006年の映画デビュー作『ドリームガールズ』で共演のビヨンセ(グラスパーと同じ高校出身)を圧倒し、2021年の『リスペクト』ではアレサ・フランクリンみずから本人役に指名。いつの時代にも通用する歌唱力は、幼少からゴスペルで鍛え上げたもの。女優としてアカデミー賞、歌手としてグラミー賞を獲得。(Photo by John Shearer/WireImage)

―『Black Radio』にはこれまでコモン、Qティップ、ヤシーン・ベイなど伝説的なラッパーが参加してきました。『Ⅲ』ではそのリストにD・スモーク、ビッグ・クリット、タイ・ダラー・サインなどが新たに加わりました。先ほど「俺はトレンドを追わない」と語っていたように、あなたがラッパーを選ぶ理由は人気や知名度ではないと思います。今回加わったラッパーたちのどんなところが相応しいと考えて起用したのでしょうか?

グラスパー:彼らは伝えなければならない意見を持っている。そして彼らは根っからのアーティストだと思う。つまり真のアーティスト。一般には受け入れられないようなことを言ったりもするけれど、どれも言及されるべき耳が痛い正論だったりする。スーパー・ドゥーパー・ドープで最高に才能溢れたアーティストたちで、俺が絶対に一緒にやりたいと思った人たちばかりだよ。

例えば、タイ・ダラー・サインとはずっと一緒にやりたいと思っていた。だって彼は、EDMワールドにもいて、ヒップホップ・ワールドにもいて、ニューR&Bワールドにもいて、オールドR&Bも大好きで、どこにでも出没する。しかも何をやっても上手いんだ。マジで才能に溢れたアーティストだと思う。だから彼とは絶対にやりたかったし、実際にドープなコラボレーションになった。彼に限らず、俺が起用するアーティストは全員、俺が素晴らしいと思うアーティストで、一緒にすごいものを作ることができる人たちばかりだ。人気の度合いは関係ないんだ……まあ、多少は誰だかわかるようでないとダメだけど(笑)。誰も知らない新人アーティストだけを起用した『Black Radio』もいつか作りたいと思ってる。でも、今の時点ではこの形でやっていきたい。俺自身がもっと上に登り詰めていくことで、初めて無名の存在を引き上げることができるからね。



タイ・ダラー・サイン

YGが2010年にリリースしたシングル「Toot It and Boot It」への好演で注目を集め、ドレイクやテラス・マーティンなど多くの作品に参加してきた西海岸のシンガー。ラップのような歌い方でクラブ・バンガーもこなす一方、オーガニックな曲でソウルシンガー然とした情熱的な歌を聴かせる一面もある。(文:アボかど)

Translated by KANA

 
 
 
 

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