ロバート・グラスパーが語る、歴史を塗り替えた『Black Radio』の普遍性

 
「今」と「歴史」を反映してきた
グラスパーの音楽が変えたもの

―リード・シングル「Black Super Hero」には、キラー・マイク、BJ・ザ・シカゴ・キッド、ビッグ・クリットの名前がフィーチャーされています。さらに、DJジャジー・ジェフやリサ・ハリス、あなたやデリック・ホッジの子供も参加している。そんなふうに出自や年齢がバラバラなゲストが集まっていることは、この曲が伝えたいメッセージと関係ありそうですか?

グラスパー:どこの出身だろうが、どこで育っていようが、どこで暮らしていようがアメリカにおける黒人のストーリーは同じなんだ。アメリカで黒人でいるということは、生まれた時から「人生をしくじる」ようなシステムのもとで生きていくことを強いられるようになっている。それがアメリカなんだ。アメリカのシステムそのものが、黒人はまともに生きていけないようにできている。だからこそ、尊敬できる存在や希望を与えてくれる存在、勇気づけてくれる存在が必要なんだ。“Black Super Hero”こそが、手を差し伸べ、励まし、奮い立たせてくれる存在であり、俺たちにはそういう存在がいるんだってこと。アメリカのどこの街にいようと、黒人であれば必ず潰されそうになる。でも、周りには必ず立ち上がるために手を差し伸べてくれる人がいるんだ。



―メッセージ性でいうと、『Black Radio』シリーズでは毎回スポークンワードが使われていますよね。グラミー賞を受賞した『2』の収録曲「Jesus Children」でも入っていましたし、『Ⅲ』ではオープニングの「In Tune」だけでなく、H.E.R.が歌う「Better Than I Imagined」でもミシェル・ンデゲオチェロの語りが挿入されています。

グラスパー:俺は音楽をバックに語りが入るときの、その質感が好きなんだ。どんなにディープなことを歌っていても、歌だとそのメッセージが伝わりづらかったりする。でも、スポークンワードだとみんな言葉に耳を傾けるだろ? メロディを歌っていないだけで言葉が直に入ってくる。ニーナ・シモンがプロテストの手段として使っていた理由もそこなんだ。スティーヴィー・ワンダーもそうだよね。だから、特に重要なことを伝えたいときにこの手法を使うんだよ。「この言葉をしっかり聞いてほしい。理解できないかもしれないし、見落とすこともあるかもしれない。それでも聞いてみてほしい」ってことだね。



―最初にタイトルの由来について、「ブラックボックスはどんな事故があってもきちんと記録が残るようになっている」と話していましたよね。それは音楽遺産を未来に継承することだけでなく、「その時代にアメリカで起きた社会的な問題を記録しておく」みたいなことのメタファーでもあるのかなと思ったんですが、いかがですか?

グラスパー:ニーナ・シモンはこんな名言を残している。「時代を反映させることはアーティストの責務である」。これは俺たちの責務なんだ。時代を記録せずにどうして自分をアーティストと呼べるんだ? アーティストは自分たちが生きている時代を記録しなければならない。これはとても重要なことだ。多くの人々が歴史を研究していく一方で、同時に歴史の削除も進んでいる。今、俺たちが知る歴史がそうだ。真の史学者であるなら、「今」を保存しておきたいだろ? それこそが真の歴史になるわけだから。だから俺が音楽をやるときに必ず意図しているのは、今現在起こっていることを象徴したものにすること。時には少しだけ、時には多く。それは曲によって違うけれど、俺の曲を聴いたら、「これは2011年頃だな」「これは2013年だな」「2022年だな」と必ずわかるはず。そう気づかせてくれる何かしらの要素を入れているんだ。

―『Black Radio』はその後の音楽シーンを塗り替えた歴史的な作品で、ミュージシャンの演奏の価値を高めたことが、このシリーズの大きな意義だと思います。あなた自身は、このシリーズの功績についてどんなふうに考えていますか?

グラスパー:ハイレベルの音楽アートが高く評価される道を拓いたと思っている。グラミー賞でも、『Black Radio』の影響で新しいカテゴリーができたほどだ(2013年に新設された最優秀プログレッシブR&Bアルバム部門を指すと思われる)。R&Bカテゴリーではあるけど、「R&B・アンド・ビヨンド」と呼ぶべき音楽に、新しい可能性を広げるきっかけになった。そのおかげでスナーキー・パピー、ジ・インターネット、ハイエイタス・カイヨーテのようなバンドたちの「居場所」ができた。サンダーキャットだってそうだ。

それ以前のブラックミュージックには、小さな枠しか与えられていなかった。グラミー賞を取りたかったり、ノミネートされたりしたければ、決められた形の音楽をやらなきゃならないと思い込まされていた。クリス・ブラウンみたいな音じゃないとダメとか、「こういうサウンドでないと認めない」みたいな感じで、(先進的なアーティストの)入り込める場所が存在しなかったんだ。でも、『Black Radio』が高く評価されたおかげで新しい場所が生まれた。今ではサンダーキャットみたいな不思議系であっても大丈夫と思えるようになったんだ。たくさんの道が切り拓かれたのは素晴らしいことだよね。特定の枠にハマる必要なく、自分らしくやっていいんだと思えるようになったわけだから。もちろん、グラミー賞がすべてではないけど、いい傾向だと思う。


Photo by Masanori Naruse

―最後の質問です。この世を先立ってしまったアーティストのなかで、もし今も健在だったら『Black Radio』に起用してみたかったシンガーはいますか?

グラスパー:うーん……(考え込んで)ダニー・ハサウェイ。 

―その理由は?

グラスパー:ダニー・ハサウェイを選んだのは、ダニー・ハサウェイだから(笑)。彼は演奏もできるし歌えるし、スティーヴィーみたいにマルチ・プレイヤーだ。俺と彼のマインドを合わせたら最高のものが作れたと思う。それからニーナ・シモン。特に今の時代だからこそ彼女がいいんだ。彼女は聴く人が気づかないようにプロテスト・ソングを作ることができる奇才。本当に賢くすり抜ける技を持っている。今の時代にはその才能が必要なんだ。

―ひょっとしたら、ゴスペル・シンガーだったお母さんのキム・イヴェット・グラスパーを挙げるかなと思ってました。

グラスパー:ああ! 実は頭のなかにあったけど、誰も俺の母親がどんなシンガーか知らないから記事にするにはちょっとな、と思って考え直したんだ(笑)。『Canvas』(2005年の2ndアルバム)に入っている「I Remember」の冒頭で、母の歌声を少し引用したことがあるしね。もちろん、母とはやりたいよ。

―そういえば、また相関図を作りました(笑)。

グラスパー:(日本語で)ありがとうございます! 5月に日本で会おうな!

【関連記事】ロバート・グラスパー『Black Radio III』絶対に知っておくべき5つのポイント




ロバート・グラスパー
『BLACK RADIO III』
発売中
日本盤SHM-CD  税込価格:¥2,860
視聴・購入:https://Robert-Glasper.lnk.to/BlackRadio3PR


ロバート・グラスパー単独公演
※どちらも1日2回公演
2022年5月11日(水)ビルボードライブ大阪
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13318&shop=2
2022年5月13日(金)ビルボードライブ横浜
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13319&shop=4



『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022』

日程:2022年5月14日(土)、5月15日(日)
11:00 開場 / 12:00 開演(予定)

会場:埼玉県・秩父ミューズパーク
〒368-0102 埼玉県秩父郡小鹿野町長留2518
会場アクセス:https://www.muse-park.com/access#map

チケット:
一般・指定席(前方エリア)1日券 16,000円(税込) ※両日SOLD OUT
一般・芝生自由1日券 13,000円(税込)
中学生高校生・芝生自由1日券 6,000円(税込)
駐車場1日券 3,000円(税込) ※5/14(土)SOLD OUT
シャトルバス利用券(往復)料金未定 西武秩父駅⇔会場(約15分)
※小学生以下は、芝生自由エリアに限り保護者1名に付き1名まで入場可
※駐車券はイープラスのみで販売
※シャトルバス利用券の詳細は追ってお知らせいたします

出演:
5月14日(土)
DREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ, Chris Coleman, 古川昌義, 馬場智章
セルジオ・メンデス
SIRUP
Ovall - Guest : SIRUP, さかいゆう, 佐藤竹善(Sing Like Talking)
aTak
チョーキューメイ
kiki vivi lily

DJ
YonYon
松浦俊夫
沖野修也(KYOTO JAZZ MASSIVE / KYOTO JAZZ SEXTET)
Licaxxx

5月15日(日)
ロバート・グラスパー - Robert Glasper (key) / David Ginyard (b) / Justin Tyson (ds) / Jahi Sundance (DJ)
SOIL&”PIMP”SESSIONS - Guest : SKY-HI、Awich、長塚健斗
Nulbarich
Vaundy
WONK
Answer to Remember - Guest : KID FRESINO, ermhoi, Jua, 黒田卓也
Aile The Shota

DJ
柳樂光隆(Jazz The New Chapter)
DJ To-i(from DISH//)
DJ Mitsu the Beats
みの

各プレイガイドにてチケット発売中
https://eplus.jp/lovesupreme/

公式サイト:https://lovesupremefestival.jp

Translated by KANA

 
 
 
 

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